それからピルに興味を抱いて、あるとき産婦人科の定期検診の際に思い切って聞いてみた。「ピルを飲み始めようかと思っているんですが」と言うと、明るくていつも優しいフランス人の産婦人科女医さんが「あら!彼氏できたの?」と返してきたので、余計に、ピルは彼氏ができたら普通に処方してもらうような日常的なものなんだなという印象を強くした。
エマニュエルは、もちろん自分はピルを飲む立場ではないけど、最初にピルについての知識を得たのはいつ?例えば学校で教わる前に家族や知人など身近な人が飲んでいたとか、そういったことはあった?
「ピルは女性の権利を獲得する役割」という考え
エマニュエル:僕が高校生だったころは、まだピルの安全性や副作用について議論される前だったから、とても身近な存在だったし、普通に生物の授業で先生が生徒にピルついて詳しく話していることなんかもあったよ。
僕の母親もピルを飲んでいるのを普通によく見かけていたので、本当にすごく当たり前のことだと思っていた。僕の母親は1960、70年代に若者だった世代なので、ピルは女性の権利を獲得する重要な役割を持つと考える世代といえる。だから、僕の母親世代の女性たちにはピルは日常生活を送る上での大切なカギともいえるものだった。
毎年、1年に一度、母が産婦人科で血液検査を行ってピルによる副作用がないかを確認していた。血液検査の結果、何か異常が見つかれば、すぐに医者に連絡をしなければならなかった。幸い、僕の母親は特にピルで問題はなかったようだけど。
くみ:私の場合、かつて性暴力の被害に遭っているから、日常生活の中でも急にそういうことが起こり得るというある種の恐怖心というのがつねにどこかにある。
だから、彼氏ができたからというより、なんていうか急にそういう被害に遭うようなことになっても絶対に妊娠しない、という安心感が欲しかったというのが正直なところで。そんなことでその産婦人科医に処方箋を書いてもらい数年前にピルを飲み始めることになった。
処方箋を書いてもらったのを近所の薬局に持って行くと、3周期分、つまり約3カ月分が入っている1パッケージが3.76ユーロ(約500円)。しかもフランスの社会保険で65%が戻ってくる。日本での価格など詳しくは知らなかったけど、その安さに驚いた。それであっても、フランスでは「ピル代を女性だけが負担するのは不公平だから、と払ってくれる彼氏もいる」という話も聞くからさらに驚き。