国が海外映画作品の「ロケ誘致」に乗り出した理由 「G.I.ジョー」が誘致プロジェクトの第1号案件に

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それこそ台湾にある台北フィルムコミッションも、ものすごく大きい。何十人もスタッフがいて、台湾全体のプロモーションをかけて、作品の支援もやっています。だからこそマーティン・スコセッシ監督の『沈黙‐サイレンス‐』も誘致できたんだと思います。

――遠藤周作さんの原作を映画化した『沈黙‐サイレンス‐』は、舞台は長崎で、日本人キャストが多く出演したにもかかわらず、日本ではなく、台湾でロケが行われました。

私はもともと、長崎県のフィルムコミッションの担当をしていて、『沈黙‐サイレンス‐』では長崎でロケハンの支援をしたこともあります。長い間、関わってきたんですが、台湾で撮影することになってしまいました。もちろんロケ地にはならなくても、世界中から多くのキリスト教信者の方たちが長崎に来てくださったということはあったので、間接的経済効果などはありましたが、やっぱり日本のリアルな雰囲気で撮影していただきたかったなというところは残念ではありますね。

やはり海外で作る日本の作品は、ちゃんとリアルなところで作っていただきたいとずっと感じています。『ラスト サムライ』も一部は日本で撮りましたが、結局別の国(ニュージーランド、アメリカ)でも撮ることになってしまいました。例えばエキストラは現地のアジア人を使ったりしていますが、着物の合わせが違う人がいたり、日本にはない植物が映っていたりとか、そういうところが見えてしまう。

もちろん作り手の意志として、日本文化を面白く描こうとか、ちょっと変わった捉え方で作ろうとかわかったうえでやるのはいいのですが、そうじゃない部分で誤解を生んで、そのままになるのはやっぱり避けたい。ちゃんと日本のことを理解してくださったうえで、できればリアルなところで撮っていただきたいなという思いがあります。いい作品を作っていただくためには、日本の作品、日本が舞台の作品はなるべく日本で作ってもらえたら、というのが私たちの思いです。

日本での撮影は人材育成にもつながる

――日本はことあるごとに機会を逃してきたということですね。

もともと日本には映画文化が根付いていて。どちらかといえば地産地消というか、自国で完結するということがずっと長い間続いてきたので、国も地域も制作者の方も海外の作品というのはあまり視野に入れずにきたと思うのですが、だんだん業界の改革をしなきゃとおっしゃる方も増えてきましたね。

本当に、若い優秀な人たちがどんどん海外に流出していて。コロナの前までは、いい監督さんや、メーキャップアーティストの方などが中国に引き抜かれていましたから。やはりギャラが全然ちがったり、個人の才能をちゃんと認めてくれているので、やりがいにもつながるんだと思います。

関根 留理子(せきね るりこ)/JFC事務局長/フィルムコミッショナー。長崎市生まれ。高校卒業後渡米、大学でジャーナリズムを専攻し、旅行会社勤務の傍ら邦人向けフリーペーパーを発行するなど9年間をアメリカで過ごす。帰国後、長崎市の親善大使や地元タウン誌編集記者を経て、2004年から長崎県フィルムコミッションで約5年間FC事業に従事する。JFC設立準備事務局の立ち上げのため上京。2009年JFC設立から事務局次長、2017年より現職

――映画の分野に限らずですが、人材の流出は考えないといけない問題ですね。

海外の作品が日本で撮影されることで、日本にいる制作の方たちもグローバルスタンダードのやり方を学んでいけるし、もちろんお金も入る。そういったところでキャリアアップにもつながるという側面もあるので、もちろん経済効果もあるんですが、人材育成も含めて、国がこういった大型作品を誘致するべきだと思います。

――海外作品を誘致するうえでの課題はありますか。

言語の問題はありますね。日本って英語が話せる人が、他のアジア圏と比べて圧倒的に少ない。どうしても制作側の方たちも、英語が話せるスタッフを捕まえるのはすごく大変のようです。『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』のときはトータルで300人ぐらいの日本人スタッフが雇用されていたのですが、海外の作品が増えると、そうしたスタッフの取り合いになってしまう。それは今後の課題だと思います。

――内閣府の方の手応えはどうですか。

現場も見ていただいていて、すごく興奮されてました。全体的に作り込みをしていたロケ地でもあったので、やっぱりちょっとスケールが違うなというのは感じられたようです。もちろん私たちは日本の撮影現場も大切にしています。

地域のフィルムコミッションがサポートしているのは、ほとんどが日本の作品ですから。日本には日本なりのやり方もあるし、それが合っている、それがいいんだということもたくさんあると思うんです。でもこういうところは取り入れたほうがいいよねとか、「こういうことは他国と一緒にやるときにすごく遅れている部分だよね」、といったところの認識はしっかりと持つ必要があるのかなと思います。そういったことが検証できただけでも非常にいい機会だったかなと思います。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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