哲学者ニーチェが「道徳を最も嫌った」論理的理由 自分自身を誠実に打ち出すことこそが望ましい

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ニーチェの哲学について解説します(写真:claudiodivizia)
世界中で非常に人気のあるドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェは「絶対にこれが正しい」「絶対に美しい」といった絶対的なものを否定し、20世紀、21世紀は「ニヒリズムの時代になる」と予言していました。さらに「道徳」についても猛批判しています。ニーチェの哲学とはいったいどういうものなのでしょうか。
教養として学んでおきたいニーチェ』を上梓した哲学者で玉川大学文学部名誉教授の岡本裕一朗氏がその一端を解説します。
前回:"絶対"を否定する「ニーチェ」が現代人に刺さる訳

「ニヒリズム」「神は死んだ」はニーチェ以前から存在

ニーチェは、ニヒリズムについて「絶対的な価値が消失すること」「絶対的な目的がなくなること」「絶対的な意味がなくなること」といった表現を使います。ニヒリズムという言葉は、もともとドイツのロマン主義者たちが使っていた言葉で、ニーチェが初めて使ったわけではありません。

ちなみに、有名な“神は死んだ”という言葉もニーチェが最初ではありません。ニヒリズムや“神は死んだ”という言葉は、ニーチェが最初に使ったように思われがちですが、言葉としてはすでに存在したものを、ニーチェなりに再定義して使っているのです。

ニーチェ以前のニヒリズムは、絶対的な価値といった言い方は使いません。どちらかと言うと、肯定的なものや華やかなものを求めず、虚無主義的な、あるいは斜に構えて否定的なというイメージが強く、特別な形で定義付けられてはいませんでした。それに彼は定義付けを行い、「絶対的な価値がなくなること」をニヒリズムと呼んだのです。

さて、「絶対的な価値がなくなる」といっても、ほとんどの人にとっては、それが何を意味しているのかがわかりにくいと思います。

しかし、「この世に絶対に正しいものはあると思いますか?」とか「絶対に良いと思うものは?」「絶対に悪いものは?」などの問いに対して、「そんなものは何もない」と答える人がいたとすれば、その人はすでにニーチェのニヒリズムを肯定していることになります。

その意味では、私たちはまさにニーチェがニヒリズムの到来を予言した、次の2世紀のまさにまっただ中にいるわけです。

次ページ実際、私たちは「絶対的な価値」を持っていない
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