"絶対"を否定する「ニーチェ」が現代人に刺さる訳

19世紀に「多様性の時代」到来を予言した哲学者

世界中で人気が高いニーチェの哲学について解説します(写真:clu/iStock)
世界、そして日本でも非常に人気のある哲学者といえば、ドイツのフリードリヒ・ニーチェ(1844~1900)です。「神は死んだ」「ニヒリズム」「超人」「ルサンチマン」……。私たちがいま当然のこととして見なしている考えの多くが、実はニーチェに由来しています。彼の哲学はどういうものなのでしょうか。哲学者で玉川大学文学部名誉教授の岡本裕一朗氏が上梓した『教養として学んでおきたいニーチェ』から一部抜粋・再構成し、ニーチェ哲学の一端を紹介します。

仮面=多面性を愛する哲学者

ニーチェの非常に大きな特色として“仮面を愛する”というのが語られます。著書『善悪の彼岸』のなかで「すべての深い精神は仮面を必要とする」と言っており、仮面という形でさまざまな人格について語るのですが、それは人格の“多面性”を意味するのと同時に、心理や知識の“多面性”、そして“パースペクティブ(遠近法)”という形で説明されます。

ニーチェは、その考え方だけでなく、彼自身も多面的だし、さらにいえば、彼の知識論そのものも多面性ということを強調します。

おそらくニーチェの考え方や思想は、単純にニーチェ自身が変わった人物というか、人間として非常に面白かったというだけではなく、その“多面性”という部分が、現代の私たちと共通する1つの大きなイメージになるのかもしれません。“仮面”を強く主張し、知識そのものの多面性を強調する。その意味で、ニーチェは多面性の哲学者であり、その影響を受けた哲学者も少なくないのです。

ニーチェの場合、本当の人格と偽物の人格という発想がありません。すべてが仮面であり、虚像であると言うのです。逆に言えば、自分自身のありのままをさらけ出すという発想がないわけです。だからこそ“仮面を愛する”と言われるのですが、人はその場その場で仮面を変えているのにすぎないというのはニーチェの主張です。

キャラ変なんて言うのも、ニーチェにとっては当然のことで、“本当の自分”なんて発想はまさにプラトン主義(プラトンによる哲学、およびプラトンの哲学に強く影響を受けた哲学体系の総称)でしかないのです。ニーチェに言わせれば、「そんなものはどこにあるの?」といった感じで、“本当の”というのを彼は最も嫌うのです。

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