"絶対"を否定する「ニーチェ」が現代人に刺さる訳 19世紀に「多様性の時代」到来を予言した哲学者
仮面=多面性を愛する哲学者
ニーチェの非常に大きな特色として“仮面を愛する”というのが語られます。著書『善悪の彼岸』のなかで「すべての深い精神は仮面を必要とする」と言っており、仮面という形でさまざまな人格について語るのですが、それは人格の“多面性”を意味するのと同時に、心理や知識の“多面性”、そして“パースペクティブ(遠近法)”という形で説明されます。
ニーチェは、その考え方だけでなく、彼自身も多面的だし、さらにいえば、彼の知識論そのものも多面性ということを強調します。
おそらくニーチェの考え方や思想は、単純にニーチェ自身が変わった人物というか、人間として非常に面白かったというだけではなく、その“多面性”という部分が、現代の私たちと共通する1つの大きなイメージになるのかもしれません。“仮面”を強く主張し、知識そのものの多面性を強調する。その意味で、ニーチェは多面性の哲学者であり、その影響を受けた哲学者も少なくないのです。
ニーチェの場合、本当の人格と偽物の人格という発想がありません。すべてが仮面であり、虚像であると言うのです。逆に言えば、自分自身のありのままをさらけ出すという発想がないわけです。だからこそ“仮面を愛する”と言われるのですが、人はその場その場で仮面を変えているのにすぎないというのはニーチェの主張です。
キャラ変なんて言うのも、ニーチェにとっては当然のことで、“本当の自分”なんて発想はまさにプラトン主義(プラトンによる哲学、およびプラトンの哲学に強く影響を受けた哲学体系の総称)でしかないのです。ニーチェに言わせれば、「そんなものはどこにあるの?」といった感じで、“本当の”というのを彼は最も嫌うのです。
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