静寂の中、「風の音を聞いて悟る」

意識をもって、人の話を聞かねばならない

 昭和の大経営者である松下幸之助。彼の言葉は時代を超えた普遍性と説得力を持っている。しかし今の20~40代の新世代リーダーにとって、きわめて遠い存在になったように思える。
 たとえば米国では カーネギー、ロックフェラーの偉業やその言葉を、今の若手経営者であっても知っている。歴史から学ぶことは短い人生を豊かにするだけでなく、大きな失敗を 避けるための指針にもなる。にもかかわらず、日本では、世代を超えた経営哲学の引き継ぎが、あまりにもできていない。
今回、23年にわたって松下幸之助の側近として仕えた江口克彦氏に連載をお願いした。若いビジネスリーダーには、ぜひ「経営の神様」が江口氏に口伝したリーダーシップの奥義と、そのストーリーを味わって欲しい。(編集部)

 

松下幸之助の側で、仕事をするようになって、2年ほどの冬。京都の松下の別邸、真々庵でのこと。この庭は、京都府指定庭園となっているほどの名庭。明治時代に有名な作庭家、小川治兵衛の手によるもの。そこには二つの茶室があった。一つは真々茶室。一つは、青松茶室。その青松茶室で、二人だけ。釜から、ゆるやかに湯気が立っていた。まだ、2年ほどだから、私は緊張に緊張。ただ、坐しているだけであった。

一言、そして静寂

その時は、吉井さんという、その真々庵の管理も兼ねた老婦人がいたが、彼女が、お茶を立ててくれた。外は木枯らし。庭の杉木立が木枯らしでヒューヒューと鳴っていた。松下が飲んで、次に私が飲んで、それでも二人の間で会話はなかった。静寂の、わずかな一瞬が流れていると思ったその次の一瞬、松下が一言、話しかけてきた。「きみなあ、風の音を聞いても悟る人がおるわなあ」。「はあ・・・」それ以上の言葉はなかった。そしてまたお互いしばらく沈黙がつづいた。

私は、そのとき、この人が何を言っているのか、理解することが出来なかった。しかし、その言葉は、それから私の頭を離れることはなかった。わからないことを言う人だなあ、なにを言っているんだろうか。なぜ、私に言ったのだろうか。頭のなかを2~3日、松下の言葉が駆け巡っていた。と、3日経ったとき、ふと、この言葉が私を叱責、あるいは注意をしている言葉だと気が付いた。

次ページ相槌を打つだけで精一杯だった
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