部下を叱るときにも「心のなかで手を合わす」

「ありがたいな、みんなよう、やってくれる」

 昭和の大経営者である松下幸之助。彼の言葉は時代を超えた普遍性と説得力を持っている。しかし今の20~40代の新世代リーダーにとって、きわめて遠い存在になったように思える。
 たとえば米国ではカーネギー、ロックフェラーの偉業やその言葉を、今の若手経営者であっても知っている。歴史から学ぶことは短い人生を豊かにするだけでなく、大きな失敗を避けるための指針にもなる。にもかかわらず、日本では、世代を超えた経営哲学の引き継ぎが、あまりにもできていない。
今回、23年にわたって松下幸之助の側近として仕えた江口克彦氏に連載をお願いした。若いビジネスリーダーには、ぜひ「経営の神様」が江口氏に口伝したリーダーシップの奥義と、そのストーリーを味わって欲しい。(編集部)

 

 

心のなかで手を合わす――これは、感謝するという気持ちが商売の原点、ということだろう。松下幸之助は、折々に感謝の気持ちが、いかに大事かということを話してくれた。

この世の中、自分ひとりで生きていけるものではない。多くの人たち、たくさんのもののお蔭で生きていけるし、活動もできる。誰も一人では生きていけない。松下のように、20歳ごろに、肺結核の前兆である肺尖カタルにかかり、明日の命が分からない経験をした者にとって、その感謝の気持ちは人一倍、感じたであろう。肺結核は、いまの癌のようなものだった。もっとも癌は、このごろ、「治る病」と考えられるようになったが、当時、肺結核は、不治の病であった。

それだけに、松下の生涯は、養生しながら、用心しながらの毎日であったといっても過言ではない。「事業部制」も、そのような松下に代わって、その事業、その事業で、社員に経営をしてもらわなければ、全体の経営が出来ないから、必然的に「身代わり経営者」、「会社内会社の社長」をつくらなければならなかったからだろう。松下幸之助は、従って、つねに、部下に対する感謝の心を持ち続けていた。「ありがたいな、みんなよう、やってくれる」。ベッドの上に座り、そう呟くことが多かった。いわば、常に、心のなかで手を合わせていたということである。

もちろん、部下や社員に対してだけではなかった。

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