心のなかで手を合わす――これは、感謝するという気持ちが商売の原点、ということだろう。松下幸之助は、折々に感謝の気持ちが、いかに大事かということを話してくれた。
この世の中、自分ひとりで生きていけるものではない。多くの人たち、たくさんのもののお蔭で生きていけるし、活動もできる。誰も一人では生きていけない。松下のように、20歳ごろに、肺結核の前兆である肺尖カタルにかかり、明日の命が分からない経験をした者にとって、その感謝の気持ちは人一倍、感じたであろう。肺結核は、いまの癌のようなものだった。もっとも癌は、このごろ、「治る病」と考えられるようになったが、当時、肺結核は、不治の病であった。
それだけに、松下の生涯は、養生しながら、用心しながらの毎日であったといっても過言ではない。「事業部制」も、そのような松下に代わって、その事業、その事業で、社員に経営をしてもらわなければ、全体の経営が出来ないから、必然的に「身代わり経営者」、「会社内会社の社長」をつくらなければならなかったからだろう。松下幸之助は、従って、つねに、部下に対する感謝の心を持ち続けていた。「ありがたいな、みんなよう、やってくれる」。ベッドの上に座り、そう呟くことが多かった。いわば、常に、心のなかで手を合わせていたということである。
もちろん、部下や社員に対してだけではなかった。
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