「だから大学に行って、同じような境遇の友達ができたとき、『自分だけじゃなかったんだ』と思って、めちゃめちゃうれしくて。初めて、自分の寺の悩みを正直にしゃべれる関係性ができたので。そういう意味では宗門の大学に行ってよかったな、と思うんですけれど、でもそういうレールに乗っちゃったことも悔しくて」
仲間は、ごく少数でした。そもそも、その宗派の大学に来ている男女の割合は、約9:1だったそう。それでも、わずかな女子のなかには瑞樹さんと同様、跡取りの立場の子も何人かいたので、仲良くなって、いろんな話を共有できたということです。
「次男だから?」人を好きになるのが難しくなった
大学時代は、恋愛や結婚についても、ずいぶん悩むことになりました。
「周りの子のなかにも、大学にくるとき親から『長男はダメ。次男、三男探しておいで』と言われてきた人は何人かいて。私も言われてますけれどね。要は『お寺を継いでくれる人を、大学で見つけてらっしゃい』ってことです」
つまり、将来お坊さんになって、お寺を継いでくれる相手としか結婚できないわけです。そんな人は、そうそういないでしょう。宗派の大学は男性が多かったものの、うち7、8割は、自分の家の寺を継ぐ長男たちです。寺の次男や三男、あるいは一般の男性も少しはいたものの、そのなかだけから選ぶというのは、なかなか無理がありました。
「長男と恋愛したときって、先がわかるんですよね。どっちのお寺に行くの?となったら、うちは確実に揉めるんです。妹は継がないし、檀家さんも私が継ぐと思っている。そうすると、私ひとり悪者になるの?みたいな。最終的に母が困ることを考えると、長男と恋愛してもいいこと1個もないな、と思うようになって。
じゃあ次男、三男だから好きになるかというとそうじゃないし。そのうち、その人自身が好きなのか、次男、三男という境遇が好きなのか、わからなくなってきて。人を好きになること自体、できなくなってきたんです。いいなって思う人がいても、『次男だから好きなのか?』と思ってしまって」
なんだかドラマのような話ですが、瑞樹さん本人からしたら、とても苦しいことです。周囲の「跡取り」の友人たちも、同様の悩みを抱えていたといいます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら