「友達とは、恋愛の話のほかにも、『母が苦労しているよね』『お父さん最悪だよね』という話でも、よく盛り上がっていました。『お寺の女の人って“平等”からかけ離れて“奴隷”みたいだよね』とか『我慢しかしてないよね』とか」
男友達でも、同様の悩みを抱えている人はいたといいます。自分の母親が寺で苦労してきたのを見ているので、やはり「自分の好きな人にそんな思いをさせるのは躊躇する」と悩んでいたそう。
そもそも、お寺の女の人というのは、どんな仕事をしているのでしょうか。筆者もあまり訪れる場所ではないので、たいして想像がつきません。「法事で人が集まったときとか、大勢にお茶を出すの大変だろうな」といった程度しか、すぐに思いつかないのですが、あとはどんなことがあるのでしょう?
「そういうのもあるし、田舎のお寺は敷地が広いので、ひたすらずっと草むしりとか。日々の掃除や洗濯といった家事のほかに、広いお庭を維持したり、お御堂の掃除をしたり。電話もたくさんかかってくるし、来客も多い。まず人の顔を覚えるのも大変です」
頼まれてもいませんが、筆者など想像だけでへばりそうです。しかも、お寺に生まれた男性は「跡取り」として特別に育てられるため、瑞樹さんのお父さんのように男尊女卑で、DVやモラハラをする人も少なくないといいます。瑞樹さんは恋愛に、すなわち結婚相手選びに、とても慎重にならざるをえませんでした。
瑞樹さんの結婚までの経緯
さて、その後。いま瑞樹さんは、お寺に関係する仕事をしながら、夫と子どもと暮らしているといいます。結婚まで、どんな経緯があったのでしょうか。
「10年くらい前、いまの職場で出会った人と、たまたま運よく結婚できたんです。相手は一般家庭の出身で、『お寺に入ってもいいよ』と言ってくれる人だったので。私の知り合いに、『好きな人がいたけれど結婚できなくてずっと独身』という跡取りの女性は何人かいるので、私は本当に『ラッキー』という言葉以外にない感じです」
それは、何よりのことでした。では、やはりいつか、実家のお寺を継ぐのでしょうか?
「うーん、本当はもう交代してもいいのかもしれないんですけれど。わたし自身が、父と一緒にお寺に住んでやっていける自信がないんです。同居すれば諍いが起きる気がして、そういう場に夫を置くのも気が引けるし、ましてや、まだ幼い子どもにそういうものも見せたくない。私自身、親や祖父母の『四つ巴』を見てきてすごく嫌だったので。離れて暮らすことで、今もほどよい関係が保てていると思います」
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