デキる人がこっそり使う「心に響く話し方」3技術 データもロジックも「これ」がなければ効果半減

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その日は本社メンバーとの交流会のようなイベント日で、ビジネスの話をする時間はありませんでした。それにもかかわらず、私は自分の領域の戦略を頭の中でずっと考えていました。知恵を絞ってこの状況を打開したい、と課題が真に「自分ごと」となったのです。

もし副社長のスピーチが以下のようなものだったら、決してそうはならなかったでしょう。

「日本市場の成長率は対前年104%。悪くないようにも見えますが、韓国市場は125%です。さらに韓国支社の人数は日本支社の半分以下。生産性でいうと倍以上です。GDP成長率やツーリズム市場の成長率に差があるとはいえ、その差は大きすぎます。必要なのは業務の効率化です。営業、マーケ、ネットワーク、各領域での効率化案を早急に考えてください」

この差はどこからくるのでしょうか。後者はデータとロジックを駆使し、頭に働きかける「説得アプローチ」です。それに対して前者は、「1.対話」と「2.巻き込み」、そして「3.ストーリー」で「心に働きかける」アプローチ。私はこれを「腹落ちアプローチ」と呼んでいます。

データでは「説得」できても「動かす」ことはできない

データやロジックの大切さが盛んに語られます。確かに、それらは人を「説得」するためにはとても有効です。しかし、仮に説得できたとして、それで人の行動を変えられるとはかぎりません。人の行動を変えるには「腹落ち」が必要なのです。

東京オリンピックを開催するべきか否かは、国民的な議論になりました。反対する人が多数でした。

この時、もしもどこかの頭のいい官僚が出てきて、完璧なデータとロジックで開催することの必然性を説き、誰もそれに反論できない、という状態になっていたらどうでしょう。国民は「説得」されたわけですが、それでみんながオリンピックをサポートし始めるかというと、決してそうはならなかったでしょう。説得はされても、腹落ちしていないからです。

そもそも「説得されたい」「説き伏せられたい」という人はいるでしょうか。家電量販店で、「あの人はお客さんを説得する達人だ」という店員さんがいたら、それが事前にわかっていたとしたら、だれもその人には話しかけないでしょう。ショッピングをするとき、誰かに説得されたい、という人はいません。自分で選びたいのです。だからこそショッピングは楽しいのです。

これは企画提案の場面でも同じです。企画提案を通すのがあまりうまくない人は、とかく「説得アプローチ」をとりがちです。どんな指摘が来ても即反論できるように、データとロジックであらかじめ「理論武装」しておきます。どこから見ても隙のない提案を用意し、原稿を用意してプレゼンテーションの構成を固めておきます。

それのどこが悪いんだ、と思った方もいるでしょう。もちろん、こうした準備は、なにもない無策に比べれば圧倒的にベターです。

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