本物のアーティストは人一倍努力している プロデューサー、須藤健太郎が見たプロの世界

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塩野:須藤さんが企画を立てるときにこだわっているところや、外せないポイントはどこですか?

須藤:お客さんが「すごく」喜ぶことですね。ただ喜ぶんじゃなくて、「すごく」喜ぶこと。それだけは絶対にはずせないですね。EXILEの企画にしても、a-nationの企画にしても、「CDET!」にしても、ただ「喜んでいただきたい」というだけじゃない。ちょっと押し付けがましいですけど、もう、ものすごく歓喜させたい。そのためにはどうすればいいか、いつも考えています。20代はみんなが事前に抱いている期待値を越す、みたいなことがすべてでしたけど、今は自分たちが満足するようなアイデアを出したいというよりは、お客さんが求めているものにどう足すか、みたいなことをいつも思っていますね。

いいADはいいディレクターになれない?

塩野:たとえば就職活動中の学生から見ると、須藤さんはあこがれの業界にいると思いますが、どういうきっかけでこの業界に入ったのですか?

須藤:きっかけはいくつかありますが、いちばん大きなきっかけは、親戚がSME(ソニー・ミュージックエンタテインメント)にいたことですね。おじは邦楽を中心にした名物プロデューサーだったようで、中学生くらいからよく会社におしかけていました(笑)。実家が宮城だったので、アメリカから一時帰国するたびに宮城のデパートの音楽イベントに連れて行ってもらったりして、そこからおぼろげに音楽愛が大きくなってきた感じですかね。

塩野:キャリアの最初から音楽番組のプロデューサーだったんですか?

須藤:キャリアスタートは地上波テレビのアシスタントディレクターでした。今の会社にお世話になってからも、しばらくはプロデューサーというより本当にアシスタントでしたね。

塩野:いわゆるADですね。現場で機材のコードをさばいたり、ロケ弁の手配をするような。

須藤:そうですね。僕は今、38歳ですから、十数年前にADだった頃は、本当に昔ながらの、みなさんが想像するような過酷なAD像そのままでした。徹夜の連続で、床で寝て、1カ月に1回家に帰れればいいほう。AD1号、2号みたいな感じで、本当に名前すら呼ばれない。

塩野:最近はそういうつらい仕事をやる人が減ってしまった気がしますが、なぜ続けられたと思いますか?

須藤:僕はADの仕事に興味を持ち続けられたので、つらいとも思いませんでしたけどね。でも今の人たちが同じことをしたら多分つらいと思う。つらいことはあまりしなくていいと思いますよ。僕にとってはあの時代も、基礎を磨くという意味では大事だったと思います。でも伸び盛りの時期に短所を矯正することに時間を費やすよりも、その間に伸びるところをもっと伸ばせばよかったという後悔もあるので。

AD時代、映像業界の先輩から「いいADはいいディレクターにならない」という格言をいただいたことがあります。「あらゆることに気が回りすぎる人は、見た目ばかり気にして中身がないものを作る」という意味だったのかな。完璧にすべてを予測してディレクターや演者のことを気遣える人が、じゃあ最高のエンターテインメントが作れるかというと、そうとは限らない。もちろん優秀なADが絶対に優秀なディレクターになれないとは思わないけれど、すべての要望を全力でやり続けた自分が、それに悩まされた時期が長かったのも事実です。

塩野:なるほど。実務に精通するあまり創造性が失われていく、みたいなことはあるかもしれませんね。でも私はそれに関してはちょっと別の考えがありますね。続きは後編でやりましょう。

※後編は8月18日掲載

(構成:長山清子、撮影:風間仁一郎)

塩野 誠 経営共創基盤(IGPI)共同経営者/マネージングディレクター JBIC IG Partners 代表取締役 CIO

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しおの まこと / Makoto Shiono

国内外の企業への戦略コンサルティング、M&Aアドバイザリー業務に従事。各国でのデジタルテクノロジーと政府の動向について調査し、欧州、ロシアで企業投資を行う。著書に『デジタルテクノロジーと国際政治の力学』(NewsPicksパブリッシング)、『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』(KADOKAWA)等、多数。

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