シンガポールで見た「日本の母」が苦悩する近未来 それでも「母親の役割が重くなる」3つの理由

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経済資本は男性が、文化資本は女性が引き継ぐという傾向は日本でも指摘されている(片岡栄美『趣味の社会学』)。また、社会関係資本は女性のほうが豊富であるとの調査研究もある。しかし、子どものために使う資本が豊富であるがゆえに役割分担が固定化されているとすれば、資本が女性自身の活躍にブレーキをかけているともいえるかもしれない。

3つ目:「女性にやさしい」職場の弊害

シンガポールの共働き文化を支える企業文化はどうだろうか。インタビューで職場の環境について「女性だからという理由で昇進などが不利だと感じたことはあるか」「子どもを産んだ後にマミートラックに入るなど、扱いが変わることはあったか」と尋ねると、ほとんどすべての母親から「理解がある会社で自分は幸運」「別に職場で男女差やママペナルティーがあるとは感じない」などの答えが返ってきた。

会社員のSophiaさん(仮名)は子どもが小学生になってから週3回を時短勤務にしている。「週3は息子と過ごす時間を大事にしていて、14時15分くらいに学校から帰ってきて、毎日宿題を見ている」。

前述の企業内弁護士のBellaさんも「PSLEの直前数カ月は無給の休暇を取って、対策をすると思う。多くの母親がやっている」と話す。このような柔軟な働き方を認めてくれるとは、なんとありがたいことか。

一方で、このように時短や無給休暇をとるのは、まず女性である。「父親が休んだら、パタハラに合う?」と聞いてみると「父親が取っても母親が取っても、扱いは変わらないと思う」と皆、口をそろえる。でも、まず父親は取らないのだ。

背景として、たとえばかつて公務員に対する被扶養者医療費優遇は男性のみが受けられるなど男女で施策が異なり、女性には家庭的な役割を期待してきた経緯がある(田村慶子ら編著『アジアの社会変動とジェンダー』など)。男性の育休取得についても最近は力を入れ始め、日本よりは浸透し始めているものの、政府の目標には達していない。

日本でも「両立支援」が拡充される反面、女性に優しいことが必ずしも「均等推進」につながってこなかったことを、私は著書『「育休世代」のジレンマ』などで書いてきた。女性に優しい職場は、結果的に女性のアスピレーション(意欲)冷却を招いている可能性がある。

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