パナソニック新社長が「過去」を研究し続ける真意 停滞続く巨艦が松下時代から失ったものは何か

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2年かけて競争力強化を進め、強みを発揮できない事業は「迅速な判断でポートフォリオから外す」と楠見氏は明言するが、現時点で各事業の行方をどう考えているかは言及していない。事業会社に緊張感を持たせて、失われた現場力と競争力を取り戻そうとする意図が見え隠れする。

一方で楠見氏が明確に打ち出している方針が、パナソニックを「環境企業」にすることだ。5月27日に行われた経営方針説明会では、「地球環境問題の解決」を全面的に掲げ、事業における二酸化炭素排出量を2030年に実質ゼロにすると宣言した。ここでも創業者の哲学が基になっている。

楠見社長は5月の経営方針説明会で、「環境企業」になる方針を明確に打ち出した。写真は2020年11月の次期社長内定発表時(撮影:ヒラオカスタジオ)

松下幸之助は、会社経営の使命として「水道哲学」を説いた。蛇口をひねれば水道水が出るように、安価で良質なモノを提供していくことを指す。根底にあるのは、「精神的な安定と物資の無尽蔵の供給が相まって初めて、人生の幸福が安定する」という「物心一如」の考えだ。

日本をはじめ多くの先進国や新興国はあらゆるモノにあふれているが、楠見氏は「水道哲学は決して前時代的なものではない」と指摘する。

「環境破壊や天然資源の枯渇を考えれば、子供や孫、その次の世代まで豊かな生活が送れるか、大きな不安がある」(楠見氏)

見いだせていない成長柱と存在意義

不安の原因である環境問題を解決する事業こそ、パナソニックの進むべき道と考えているわけだ。今年中にも生産や流通などサプライチェーンの効率化を手掛けるアメリカのブルーヨンダー社を約7700億円で買収するが、生産現場などの無駄をなくすことは環境問題の解決にもつながると見る。

松下幸之助による創業から104年。長く偉大な歴史から、経営について多くのヒントが得られることは確かだ。ただ、パナソニックが長らく課題として抱えてきた成長柱の不在や、自社が何の会社であるかといったアイデンティティの喪失への明確な答えはまだ見いだせていない。

「環境企業」という目標も、SDGsの必要性が叫ばれる現在では企業経営の最低条件ともみなされる。世界中の企業が環境関連事業に取り組んで競争が激化する中、それがパナソニックらしさや競争力強化の手段として評価されるかは疑問符が付く。

楠見氏は「車載電池など事業によって社会の環境対応に直結して収益になる事業と、競争力を高めるうえで環境に投資する事業がある」と、全事業が環境に結びつくことを懸命に訴えるが、社内からは「うちは環境問題をやる事業じゃない」(照明事業の幹部)との声も漏れる。

楠見流の「松下」の解釈を、新生パナソニックにどう浸透させるのか。そのうえで、パナソニックの柱や存在意義を明確に打ち出せるかが今後の焦点となる。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

東洋経済編集部員・記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。現在は、特集や連載の企画・編集も担当。1994年台湾台北市生まれ、客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説を研究している。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。早稲田大学台湾研究所招聘研究員。ピアノや旅行、映画・アニメが好き。

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