パナソニック新社長が「過去」を研究し続ける真意 停滞続く巨艦が松下時代から失ったものは何か

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現場力を問題視するに至ったのは、社長就任前にパナソニックの車載事業部門トップの経験があったからだ。

車載機器の顧客や車載電池の合弁相手としてトヨタ自動車と接触する機会が増え、業務を日々改善するのが当たり前という同社の企業文化を目の当たりにした。「トヨタが自動車メーカーのなかでもとりわけ高収益なのは、そういうこと(社員自らが改善すべきことを考える力がある)だと改めて気づいた」(楠見氏)。

本来パナソニックにも、現場の社員の力を重視する「社員稼業」の考えが根付いていたはず。楠見氏は、各事業でこうした松下時代の強さを取り戻し、競争力を高める期間として2年間を設定している。

2年かけて各事業を強化するための手段こそ、2022年4月に行われる持ち株会社化だ。

持ち株会社制に移行すると発表したのは2020年11月。当時社長だった津賀一宏・現会長は、それぞれの事業会社が高い専門性を目指す「専鋭化」で競争力を磨くため、「各事業に大胆な権限委譲を行い、自主責任経営を徹底する」と説明していた。

あえて数値目標は明示しない

楠見氏も「自主責任経営」の下での競争力強化が必要と、社内に再三発破をかける。ここで念頭にあるのは、松下幸之助の右腕として活躍した松下電器元会長・高橋荒太郎の考え方だ。高橋は、他社に負けない仕事とは品質、コスト、サービスで負けないことだとし、そのために不断の改革の必要性を説いた。

楠見氏はこの考えに即して、各事業会社に競争力を高めるよう求めるが、営業利益率など具体的な財務目標は明示していない。「経営数値目標を提示すると、(中長期の課題への対応よりも)それが目的化することが怖い」(楠見氏)からだという。細かな数値目標は明示しないものの、目標設定やその達成を含めて各事業会社のトップには責任が求められる。

「経営の基本方針に立ち戻れば、(各事業が)やることははっきりしてくる」と、楠見氏は強調する。冒頭のように会社の綱領をたびたび唱えるのも、その理念を基に、各事業会社が自分たちに必要な施策は何かを考え出せるはずと期待しているからだ。

松下幸之助は「任せて、任せず」との言葉を残した。仕事は部下に任せていても、経営者は常に事業を見て、必要なときには指示をする。事細かに指示せず、自主責任を求める楠見氏の姿勢には通ずるものがある。

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