なぜ「パーパス経営」が「御社」に実装できないのか 経営現場に見る3つの落とし穴とその回避策

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「パーパス」というマネジメント用語が注目されている。しかし、現場から見たパーパス経営の落とし穴があることをご存じだろうか(写真:metamorworks/PIXTA)
昨今、「パーパス」というマネジメント用語が注目されている。ミッション、ビジョン、バリューの上位概念として、「自分は何のために存在するのか」、そして、「他者にとって価値のあることをしたい」という信念を意味している。組織や企業の存在意義を問い直す言葉だ。
しかし、こうした考え方は、日本の企業が昔から「志」といった言葉で、強く持っているものだ。これからは、志に基づく顧客資産、人的資産、組織資産などの目に見えない資産をいかに蓄積していくかが経営のカギとなる。
このたび、日本を代表する企業のアドバイザーを長く務めてきた名和高司氏が、この「志に基づく経営=志本経営」について、歴史や思想に始まり、内外の企業事例、実践方法までをまとめた『パーパス経営』を今年の4月に上梓し、話題となっている。
本稿では、近年、大手企業へのパーパス経営の実装活動を行っている著者が、現場から見たパーパス経営の落とし穴と、その克服の方法を解き明かす。

パーパス経営が注目される背景

パーパス経営が、世界中で注目されている。以下の外部市場の変化が背景となっている。

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1つ目が顧客市場。BtoC市場では、倫理的な(エシカル)消費が台頭している。BtoB市場では、地球や社会に負をもたらす企業は、そもそも市場から締め出されてしまう。

2つ目が人財市場。現在30代(ミレニアル世代)、20代(Z世代)、そして10代(アルファ世代)の若者は、「働きがい」を求めている。いくら「働き方」改革を進めても、地球や社会にやさしくない企業には、いい人財は集まらない。

3つ目が金融市場。ここではESG(環境・社会・ガバナンス)が投資や融資の基軸となりつつある。ESGに注力したところで、企業価値が高まるわけではない。しかし、ESGに配慮しなければ、いずれ資金が集まらなくなる。

パーパスは「存在意義」と訳されることが多い。しかし、それではいかにもよそよそしいので、筆者は「志」と訳している。金の自己増殖運動に振り回される資本主義(キャピタリズム)に、未来はない。これからは、志に基づく「志本主義(パーパシズム)」の時代が到来するはずだ。

そのような思いを込めて、筆者は4月に『パーパス経営――30年先の視点から現在を捉える』を上梓した。パーパス理論の進化のプロセスや先進事例を紹介し、日本企業が日本流の志本経営を軸に世界をリードする可能性を示唆したものだ。

■パーパス経営の実践の壁

企業人の多くは、パーパス経営の必要性に気づいている。しかし、その実装に関しては、まだまだ手探り状態のようだ。

最近、筆者が登壇したパーパス経営のウェビナーには、300人以上の視聴者が集まった。そのうちの4分の3が、「自社ではパーパスを明文化している」と回答。さすがに先進的な方々の集まりだけある。

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