なぜ「パーパス経営」が「御社」に実装できないのか 経営現場に見る3つの落とし穴とその回避策

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そのためには、デジタル人財育成への投資が不可欠となる。ただし、それはピカピカのデータアナリストやコンピュータサイエンティストを育成することではない。そのようなプロは、社外から借りてくればいい。必要なのは、自社の業務、事業、経営に精通した人財が、デジタル技術を活用できるように、リスキリング(再教育)することである。

デジタル以上に深刻なのは、ブランドに対する投資の勘違いだ。広告費を投下して、マスメディアへの露出を増やしても、パーパス経営がもたらすブランド価値を向上させることはできない。

顧客にパーパスへの共感を醸成するためには、顧客との双方向のコミュニケーションが不可欠となる。そして、ソーシャルメディアなどを駆使して、顧客の間に自社のパーパスへの共感の輪が広がるような「しくみ」を実装する必要がある。

たとえばファーストリテイリングは、「LifeWear」(究極の普段着)がもたらすサステナブルな生活文化を広げることに余念がない。顧客に必要なものだけを、必要なときに届ける「しくみ」(同社ではその実装現場の名前にちなんで「有明モデル」と呼ばれている)とあわせて、ブランディングとデジタルへの投資を大胆に進めている。

パーパス経営を掲げるだけでは、掛け声倒れに終わる。未来を拓く無形資産を見極め、そこに非連続な投資をし続けることによってはじめて、パーパス経営が企業価値向上をもたらすことができるのだ。

落とし穴3 社員への浸透の不徹底

第3の落とし穴は、「社員への浸透」の不徹底(前述アンケートの[3])である。アンケート結果が示すように、ここが多くの企業の最大の悩みどころだ。

そもそもパーパスが、SDGsの17枚のカードのような国連お墨付きの「きれいごと」の焼き直しである限り、社員の心を動かすことは困難だ。

日本の先進企業は、「KAITEKI」(三菱ケミカルホールディングス)、「Kirei Lifestyle Plan」(花王)、「安心・安全・健康のテーマパーク」(SOMPOホールディングス)などといった、自社独自の「18枚目」のカードを掲げている。

そして、経営陣がパーパスに託した思いを、イントラネットやタウンホールミーティングなどを通じて、ことあるごとに発信している。しかし、経営陣が未来に向けたパーパスを語れば語るほど、日々の業務や数字に追われている現場は白けてしまうのが実態である。

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