なぜ「パーパス経営」が「御社」に実装できないのか 経営現場に見る3つの落とし穴とその回避策
たとえばトヨタ自動車は、昨年に18枚目のカードとしてハートマークを掲げ、「ワクドキ」と表現した。そして自社のパーパスを「ハピネス(幸福)の量産」と定義し直した。まさに「ワクワク、ならでは、できる!」を感じさせるパーパスだ。
世の中が電気自動車か水素自動車か、などというカーボンニュートラルの議論に終始している中、トヨタらしい未来への志を高らかに掲げたのである。
落とし穴2 投資の勘違い
第2の落とし穴が、「投資」の勘違い(前述のアンケートの[2])だ。まず投資の対象が、設備や販売網などといった有形資産ではなく、ブランドや知識などといった無形資産となる。これらの資産は、パランスシートには計上されない。他社には模倣されにくい、その企業ならではの隠れた資産なのである。
パーパス経営においては、従来型のスケール(規模)の経済から、スキル(技能)の経済へと、価値創造の軸が大きくシフトするように見える。これは一見、日本企業、なかでも、その99.7%を占める中小企業にとっては朗報だ。これまでも「たくみ」の技に磨きをかけてきたからだ。しかし、逆説的だが、そこにこそ落とし穴がある。
「たくみ」を「しくみ」に変換できない限り、大きなインパクトをもたらすことはできず、自己満足の域から脱することができない。もっとも、「しくみ」それ自体はコモディティ化しやすい。そこで、常に「たくみ」を生み続け、それを「しくみ」に落とし込むことで、しくみを進化させ続ける必要がある。
トヨタのTPS(トヨタ生産方式)は、その好例だ。現場で問題が起こると、あんどんでラインを止め、現場のたくみを駆使して問題を解決する。そして、そこでの発見を新たなアルゴリズムとしてしくみに実装するのである。
TPSが「考える現場を作るしくみ」と呼ばれるゆえんである。海外企業がTPSの本質をうまく実践できないのは、「たくみのしくみ化」という動的能力への投資を怠ってしまうからだ。
一方、日本企業の多くがデジタル化で後手に回るのは、「たくみ」の力に頼りすぎてしまうからである。確かにデジタルよりヒトの知恵のほうが、少なくとも今のところ、勝っているように見える。
しかし、ヒトに依存しすぎる限り、いつまでたっても現場版の家内制手工業から抜け出すことはできない。「たくみのしくみ化」に踏み出すことで、スキルの経済とスケールの経済の良循環をめざさなければならない。
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