日銀の出口戦略はどうなるのか 黒田総裁が考えている、「本当の戦略」とは?

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ちなみに、市場との対話というが、金融市場には市場の声、というものはない。市場がこう言っている、という表現、とりわけ、メディアの記事は、一般の人々に誤解をもたらす。

日銀にとっての「市場との対話」とは?

市場がこう言っている、というのは、市場の動きをこう解釈したい人の言い分はこうです、ということだ。同時に、市場を動かしているのは、投資家の投資行動、つまり売買であるから、市場の動きとは、投資家の動きにほかならず、自己のトレーディング収益だけを考えている投資家の動きをわれわれは見ている、あるいはメディアにより聞かされているだけであり、市場の神がいて、市場の神のお告げが、市場価格に現れているわけではないのだ。誰かが売ったから、株価は下がったのであり、市場の神が、今の株価は高すぎる、あるいは日銀の政策は市場にとって望ましくないと神が判断したわけではないのだ。

したがって、市場はこういっている、市場の声はこうだ、市場の声を聞け、という言葉遣いをする人々は、すべて自己利害のある投資家か、彼らの回し者だと考えた方がいい。ちなみに、行動ファイナンスにおける、英語の学術用語は、investor sentimentであり、market sentimentとは決して言わない。

さて、しかし、中央銀行が市場との対話、と言ったときには、少し意味が違う。私の個人的好みとしては、前述のことがあり、それを連想させる(市場の動きはあたかも神であり、市場価格が答え、あるいはそれを神格化することにつながる)るので、この表現は好きではないが、好き嫌いを離れて、この言葉には若干の正当性がある。

中央銀行自身は、確かに、市場と対話しているからだ。マーケットに現れてくる金利や証券価格を見て、金融政策、とりわけ金融調節をするのであり、それはかつての窓口指導と呼ばれた、貸し出し金融機関との直接のやり取りがないことも意味しており、あくまで、すべての中央銀行のアクションは市場を通じてなされる、市場オペレーション、いわゆるオペを通じてなされるからだ。

一方、中央銀行は、直接投資家の声を聴くことにも最近は注力しており、機関投資家などを集めたミーティングも以前よりも増えているように見受けられる。

さて、Public relationship,つまりPRと同様に、Investor relationship, IRは中央銀行、日銀にとっても重要なわけで、市場を通じて行動をするわけだが、投資家達がどのような受け止め方をするかには細心の注意を払うことが必要で、それと同時に、大きな枠組みでの大局的な戦略も必要である。広報戦略と本質的には同じであって、IR戦略が日銀にとっても市場資金調達をしたい企業と同じように重要なのだ。

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