規制に振り回されるパチンコ業界の明暗

拡大
縮小

異変が起きているのはホールだけではない。遊技機メーカーはヒットの有無で収益の優勝劣敗が鮮明になり、盟主の座が入れ替わりそうだ。

上場4社の08年3月期業績予想は、SANKYOの強さとセガサミーホールディングス(サミー)の失墜が目立つ。中型ヒットを積み上げる体制を一新したSANKYOは、フィールズと組んだ「エヴァンゲリオン」シリーズがヒットし、大作メーカーの地位を不動にした。対するサミーはパチスロ「北斗の拳」が販売計画を下回る。今期発売予定だった大作パチンコ機も、完成度を高めるためとはいえ来期に発売を延期した。ゲーム大手のセガを取り込んで多角化を図ったものの、アミューズメント施設が回復せず110店の閉鎖・売却を断行。08年3月期は260億円の純損失に転落する見込みだ。

老舗で往年のパチンコ首位、上場第1号だった平和も、近年は大ヒットに恵まれずに苦しんでいる。昨年、パチスロ製造のオリンピアを統合したことに伴い、創業者の中島一族からオリンピア創業者の資産管理会社に大株主が移った。グループ内でパチンコに資源をシフトするが、平和側で人員削減を行うなどリストラ途上である。

アルゼはパチスロ4号機の開発にいち早く見切りをつけ、5号機に精力を集中。これが功を奏し「青ドン」「赤ドン」が人気機種に。今期は赤字を脱却しそうだ。が、海外ホテル持ち分からの配当収入などを除けば、まだ収益は回復途上の5合目だ。

パチンコもパチスロも液晶が大型化の傾向にあり、メーカーにとっては製作コストの上昇が続く。人気キャラクターへの版権料とテレビCMなどの広告宣伝費負担に耐えられない中小メーカーは、淘汰が避けられないだろう。

特に危機感を募らせるパチスロを主力とするメーカー首脳は、行政との接触を繰り返し、ギャンブル性の高い機種への規制を緩和するように訴え続けているようだ。ただ、警察当局は「ありえない」と一蹴しているという。大半のホールの収益回復にメドが立った現状では、4号機のように大金をつぎ込まなければ当たらないギャンブル性の高さは”庶民の娯楽”を逸脱しているとの姿勢を崩すつもりはないようだ。

業界に夜明けの光が差していることは確か。だが、その恩恵にあずかるのは一部の企業だけだ。「次の再編はパチスロメーカーが軸」(フィールズの大屋社長)との声も出てきた。淘汰の波が、一気に押し寄せるかもしれない。

(撮影:風間仁一郎)

山川 清弘 東洋経済『株式ウイークリー』編集長兼「会社四季報オンライン」副編集長

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

やまかわ きよひろ / Kiyohiro Yamakawa

1967年、東京都生まれ。91年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。98~99年、英オックスフォード大学に留学(ロイター・フェロー)。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)など。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT