ダイエー創業家「中内潤」がいま語る父、大学、教育 流通科学大が就職率に拘らず学生に向き合う訳
もう1つ気づいたのが、中学校から習ってきた勉強がまったく役立っていないという現実です。たとえば、英語を6年間勉強してきても、ほとんどの人が話せない。僕自身、微分積分や漢文を一生懸命勉強しましたが、大学を卒業してから60を超えた今に至るまでいっさい使ったことがない。いったい何のためにそれらを勉強したのかと思います。
言うまでもなく、入学試験のためです。それに合格するためには、記憶さえすればよかった。でも、使えない知識を持っていても無駄なだけでしょう。それなら、使える(求めている)知識を教えればいいのではないかと考えたわけです。
ところが使える知識、技能は人それぞれ違います。まずやりたいものを自分で決めさせれば勉強するのではないかと考えたのです。そこで入学してから半年間は必修科目を課さないことにしました。このカリキュラムを発表したところ、学内で批判を受けました。それに対して僕は「6年間教えてきて身につかない英語をまた教えるつもりか」と反論しました。日本にいれば使わないわけですから、英語を教えても本人が英語を必要と思わなければ勉強しません。逆に、留学すれば英語は生活するために絶対必要だから勉強しますよ。
そこで、本当に英語に興味がある学生には、早い段階で短期でも留学経験をさせてみる。そこで、「これからは絶対に英語だ」と思った学生に、帰国後英語を教えると吸収力がまったく違います。
まずは「夢を持たせる」
授業をしない半年間に何をするか。まずは、夢を持たせよう、と考えました。そこで、選んで入学した学部、学科をとりあえず1年間試してみて自分には合わない、もしくは、別の学部、学科のほうが合っていると思えば、2年生から自由に学部、学科間を動けるようにしました。それまでは、転部、転学科の際に、試験を実施していましたが、今は面接だけで自由に動けるようにしました。
さらに、夢を見いだし積極的に動こうとする学生を応援する「トライやるイヤー制度」も実施しました。これは、将来の夢や目標、自分の興味を徹底的かつ集中的に突き詰めるため、学外でのさまざまなチャレンジを応援する制度です。半年間利用することができ、在学中の活動となるので4年間での卒業を目指すことができます(制度利用期間中の授業料相当額を活動終了後に給付)。
長田:今、(日本の)大学生の大半は将来の夢や目的を持たず大学に来ています。その前段階である小、中、高校生の「夢」も心もとないです。全国の小学3年生~高校3年生の男女3000人を対象とした調査、2020年度「大人になったらなりたいもの」(第一生命保険)の結果、男女とも幅広い世代で「会社員」がトップとなりました。
この現象を見て感じるのは、高校生までの青少年が「職業」をいかに知らないかという実態です。マックス・ウェーバーの『職業としての学問』ではないですが、中内さんは単なる夢追い人になるのではなく、複雑系である「職業意識」を植え付けるにはどうすればいいと思いますか。