ダイエー創業家「中内潤」がいま語る父、大学、教育 流通科学大が就職率に拘らず学生に向き合う訳
──素顔の中内功氏は本当にネアカだったのですか。フィリピンの戦場で九死に一生を得た後も、流通業の革命家として闘い続けた苦労人です。その強面(こわもて)の表情には闘志がみなぎっていました。どう見ても常時ニコニコした今風の明るさはない。「ネアカ」には「今風の明るさ」とは異なるもっと深い意味があったのではないでしょうか。
中内:「ネアカ のびのび へこたれず」は、もともと、三井物産の会長、社長、日本経団連副会長を務められた八尋(俊邦)さんが(『ネアカ経営論』という自著でも)使っている言葉です。それをボスがいただいたと聞いております。まねたのか、いただいて使わせてもらったのか、その真偽はわかりません。このフレーズを私なりに解釈し、学生たちには「失敗を恐れるな」というメッセージにして送っています。
今の大学生は一言で言うと引っ込み思案なのです。あまり、チャレンジしようという意識を持っていません。問題がなければいいという感覚です。だから、大学へ来ても授業にはきっちりと出席する。クラブ活動にも参加はするものの、ややこしい役割を背負うことはせず平々凡々と過ごし、とりあえず大学を卒業して、普通に就職できればいいと思っているようです。
長田:夢の実現どころか夢さえ持てない、夢の対象となる現実さえ知らないというのが現代大学生の気質と言えるかもしれません。
成績優秀な学生の実情を知って驚いたこと
──流通科学大学はそこで6年前に「夢の種プロジェクト」を始めたわけですね。
中内:そうなんです。このプロジェクトは、「夢の種」を「探す」「育てる」「咲かせる」の3つの項目から構成されています。これらは教員から与えられるものではなく、学生個々人が自分で「探す」「育てる」「咲かせる」という自主・自立を基本としています。すなわち、この「夢の種プロジェクト」の目的は、学生自身が自分で自分の「夢」を「探し 育て 咲かせる」ことです。教職員は、あくまでこれをサポートする支援係に徹しています。
実は、このプロジェクトを始める前、驚くべき現実を目にしたのです。卒業式に各学科の成績優秀者が学科代表として卒業証書をもらうのですが、その半分は就職先が未定でした。成績優秀と就職できることは関係ない。これは、おかしいのではないかと思いました。彼らに「あなたの目標は何ですか」と聞いても答えられない。
商学部ならつぶしがきくだろう、と思い入学し、その感覚が4年間経っても変わっていない。つまり、「就職予備校」という感覚で大学に入学したのでしょう。それなら、高卒で働いたほうが給料をもらえるだけでもいいのでは、親に授業料を払ってもらって大学に通っている4年間とは、いったい何だろうかという思いを強めました。