ダイエー創業家「中内潤」がいま語る父、大学、教育 流通科学大が就職率に拘らず学生に向き合う訳
ダイエーに入る前から、世間一般でいうところの父親像を見た記憶はまったくありません。入社後も、「親子関係」を感じたことがない。呼称だけではなく、実像が「父」というより「ボス」だったのです。
──社内ではボスとどのように接していましたか。
皆の前で会議するとき以外は会うことがありませんでした。ほかの役員もそうですが当時はメールもなくて電話がかかってきて呼び出されます。ボスは長話をしませんでした。
ボスは厳しいというようなものじゃなかったですよ。たとえば、企画書を持参し、その中身を説明しようとすると、「書いてあることは説明するな。ここに書いていないことを言え」と厳しい口調と表情で迫られる。そこで、十分説明できないと、「じゃ、帰れ」。それで、終わりです。余計なことはいっさい言わなかったのですが、無言の圧力を感じました。
ですから、まず、企画書を読んでもらうにはどうしたらいいのか、というところから徹底的に再考し出直しました。それでも、何度もダメ出しされる。このような環境下で鍛えられてきたので、僕はそのような指導が当たり前だと思っていました。「きつい」と思ったことはまったくありませんでした。今の大学生、若い社員なら、「きつい」「厳しい」、さらには「パワハラ」と言い出すかもしれませんね。
「褒める」と「叱る」をどう使い分けるか
──若者に対する指導についてはどのようにお考えでしょうか。「ボス」からマンツーマン教育を受け、経営の修羅場を経験した中内さんは、「叱りの哲学」を持たない「褒めて伸ばす」方法だけで、企業で競争力を高めるマネジメントができると思いますか。
中内:できませんよ。実業とは実に厳しい世界です。ただし、(改正労働施策総合推進法が2020年6月に施行され)ハラスメント防止が厳格化されている今、「できませんよ」と一言だけで済ますと誤解されてはいけないので、「褒める」と(感情にまかせて怒るのではなく指導のために)「叱る」を上手に実践している事例として、流通科学大学の起業家教育を紹介しておきましょう。
今でこそ、起業家教育を売りにする大学が増えてきていますが、本学はもともと、ビジネスパーソン育成を最大目的とする大学として設立されました。事業承継を前提とした後継者候補の学生も多いので、講義ベースでは「起業・事業承継コース」を設けているだけでなく、既存のゼミとは別に、起業や事業承継を目標とする学生を対象に、「創志塾 Start up」を開講しています。同プログラム内の企画「流科大版 マネーの虎」では、学生がプレゼンテーションした事業プランを現役経営者が審査し、優秀者には実現に向けたサポートを行います。
この名称はかつて注目されたテレビ番組にあやかったので、大枚をはたいているように捉えられるかもしれません。設立資金面でサポートする仕組みをつくっていますが、単に大盤振る舞いするのが本プロジェクトの主旨ではありません。本学にはもともと後継者(承継者)が多かった。その中には、親と違うことをやりたいという人も多い。それは起業に近いのではないかと考えました。では普通の授業とは違う内容を展開しようということになりました。