「父は、朝になって突然『母ちゃん、今日までに絶対5万要るから、5万くれ』とか、その当日に言うんですよ。小心者なので、怒られると思って前もって言えなくて、もう絶対今日払わなきゃいけないというときに『何万くれ』って言い方を母にしてくるんです。『そんなのあるわけないじゃない』『でも今日払わないとどうにもならない。返すって約束しちゃったんだ』みたいな喧嘩を、毎日のようにしていましたね」
Gが手を這うのは序の口、台所は「ナウシカの腐海」
彩矢さんから聞いた「ゴミ屋敷」の現実は、筆者の想像を何周か上回るものでした。ここからしばらく、虫や爬虫類が苦手な方は、読まないことをお勧めします。
裏が雑木林の、古い一軒家です。それはもう、いろんな生き物が入ってきました。夜、暗い部屋で携帯をいじっていると、明かりに吸い寄せられたゴキブリが手をのぼってくるのは序の口。そんなものは「振り払えばいい」のですが、ムカデには困りました。
「刺されると腕がパンパンに腫れて、すごく痛くなっちゃう。見た目もグロテスクですし、一番怖かったです。部屋のなかにいっぱいいるんですけれど、ゴミで床が全然見えないので、たまたま壁を伝っているのを発見したのを殺すしかない。ムカデって大体つがいなので、一匹いたときは必ずもう一匹いるから、ゴミの中を漁って探して、妹とふたりでフマキラーでシュッとやったりしていました」
蛇は、跳ぶのだそうです。
「最初は壁の上のほうを蛇が這っていて、『蛇だ!』となったんですけれど。蛇って跳ぶんですよね。ジャンプ力がある。ふつうの家なら蛇がいたらわかるんですけれど、うちはゴミだから、上から下に蛇がダイブした瞬間に、もうどこにいるかわからないんです。すごい一生懸命探して、最後は父が絞めていた気がします」
そもそも一体、床が見えないほどのゴミというのは、何なのか。
「本当に生活のゴミですよね。全部ありました。台所はもう、ナウシカの腐海みたいになっているんです(笑)。食器がいっぱい溜まって洗えないから、ずっと紙皿と割り箸で生活していたんですけれど、食べ終わったらそこらへんに放り投げる。そうすると、当時室内飼いしていた犬が紙皿をなめてくれるので、それがどんどん積み重なっていくんです」
座る場所はありませんでしたし、寝る場所もなくなっていきました。
「最初は2段ベッドに私と妹が寝て、親は床に布団を敷いて寝ていましたが、ゴミでお布団を敷けなくなり、ムカデも出るので、布団は撤去して。父と母、私と妹、みたいな感じで、2人用の2段ベッドに4人で寝ていました」
中学生の頃は2、3年間、お風呂を使えなかったこともありました。給湯設備が壊れたのですが、「ゴミ屋敷すぎて、修理を呼べなかった」からです。このときは3、4日に一度、近所の銭湯に通っていましたが、どうしても髪の汚れが気になるときもありました。
「いま思ったら絶対、友達は気付いていたと思うんですけれど。今日はさすがに髪がベタベタだと思う日は、自分から『今朝ワックスつけすぎちゃって。ベタベタしてない?』って笑いにもっていこうとしたり。フケが出ても、『さっきチョークの粉かぶっちゃってさ』とか。もう『言わないで』みたいな感じで、自分から」
幸い、友達はみんな「あ、そうなんだ」と受け流してくれたということです。
家での食事は、ほぼスーパーの総菜でした。弁当が必要なときは母が用意してくれたのですが、白いご飯に必ず髪の毛が絡まっているのが悩みだったそう。いつも友達に見つからないよう、いったん口に入れて残った髪の毛をティッシュに出して、処分していたといいます。
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