ムカデが這う「ゴミ屋敷」で育った20代女性の苦悩 学校の友だちが一人もいない塾が救いだった

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聞いても仕方がないのでしょうが、それでもやはり「なぜ?」と思わずにはいられません。彩矢さんの両親は、どうしてゴミを捨てられなかったのか?

「母はもともと、捨てられないタイプの人ではないと思うんです。父の実家に住んでいたときはふつうに片付いていたし、家庭訪問のときも一部屋だけはきれいになるので。たぶん、子ども二人を養うのに仕事をしながら、父の借金のせいで頭を下げてまわったりしなきゃいけないなかで、ゴミを捨てて家をキレイにするというところまで気力がわかない感じ。ほかのことが大変すぎて、ゴミ屋敷で生活するのに慣れすぎちゃって、どんどんすごい家になっちゃったという感じでしたね」

なお、父親は文句を言っては怒るだけで、自分が片付けようという発想はまったくなかったようです。

もちろん、彩矢さんや妹にどうにかできるようなレベルのゴミの量でもありませんでした。そもそも「ゴミを片付けない環境」で育ってきた子どもたちが、そのゴミをどうすればいいかなど、想像できないでしょう。

同じ学校の子が一人もいない塾が救いになった

中学生の頃、彩矢さんの救いとなったのは塾でした。夫の借金で苦労しながらも、母親は娘たちを遠方の塾にバスで通わせてくれたのです。彩矢さんはその塾のことをしきりに感謝するのですが、何がそんなによかったのでしょうか。

「同じ学校の子が一人もいない塾だったので、嫌なことがあったときも、そこに行けば全然違う友達や先生がいるのが救いでした。優等生っぽくしなくてもいいし、友達から噂が流れる心配もない。本当に解放的に友達関係を築けたので。自分が人と違う環境で育っていることを忘れられる場所があったのが、精神衛生的にすごくよかったなって思います」

逆にこの言葉から、彩矢さんがふだん学校でどれだけ気を張って過ごしていたかが伝わってきました。もしやと思って尋ねると、父親はやはり、彩矢さんの同級生の親たちからも借金をしていたようです。

「私は母の頑張りも見ていたので、『親がああだから子どももそうなのね』っていうのは、絶対に言われたくなかったんです。『借金がこんなにあって、家庭環境がめちゃくちゃなのに、よくこんないい子に育ったね』って言われるように頑張ろうって、いつも思っていて。だから学校ではいつも優等生で、先生受けもよかったんですけれど、家ではヒステリックで、物に当たったり、キーキー叫んだりしていました」

勉強はやればやった分だけ順位が上がるのも、彩矢さんにとっては拠りどころになりました。「ゴミ屋敷から抜け出すには、県外の大学に進学するしかない」と思っていたこともあり、中学、高校時代は毎日4、5時間、休みの日はもっと勉強していたといいます。

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