消費税アップが「景気悪化」を加速させる納得理由 お金を使えば使うほど損と思う人が増えるだけ

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以上は、カーネマンがいう「人間は得よりも損に強く反応する」ことの一例です。これを「損失回避の法則」といいます。損失回避は、現状維持にもつながりやすいため「現状維持バイアス」と言われることもあります。

損失回避の法則は、人間の判断や行動に大きな影響を及ぼします。例えば、「得をしたい」という気持ちを「損したくない」気持ちが上回ると、新しいものに切り替えられなくなります。

いつも行きつけの飲食店で、毎回同じメニューを頼んでしまうのも、損失回避の働きです。知らない店で初めての料理を食べ、「やめておけばよかった。損をした」とあとで後悔するぐらいなら、いつもの店で、いつものメニューを食べたほうが安心だ、というわけです。

「本日限り50%オフ! まもなくポイントが失効します」と言われると、いま買わなきゃなんだか損する気がするのも、損失回避の働きです。「損をしたくない」という気持ちは人間の自然な心理であり、避けようがありません。問題は「損をしたくない」気持ちが強すぎると、極端に現状維持を好むようになること。何かを変えよう、進歩させようとする前向きな行動が生まれにくくなります。

選挙で現職に票が集まるのも、損失を回避する意味があります。現職が当選すれば、「世の中がそれ以上よくなることもないかわりに、それ以上悪くなることもない」からです。そのため一般的に、現職に多く票が集まるのは、景気がいい時か、少なくとも景気が悪くない時です。

逆に、経済格差に苦しむ人が増えたりすると、「現政権には任せていられない、トランプに投票しよう」といった、改革の機運が高まります。リスクをとっても、現状を変えたいという気持ちが強くなるからです。

一般的には、「減税すると国民が使えるお金が増えるから、景気がよくなる」と信じられています。しかし人間は、使えるお金が増えても物を買わないことがあることを、節約家の私たち日本人はよく知っています。コロナウイルスの感染拡大を受けて現金10万円が一律給付されましたが、多くの日本人は消費に使ったりせず、貯金にまわしていました。「将来が不安だから、今は貯めておこう」という判断ですから、これはこれで合理的です。

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