75人クラスターの病院が苦悶した完全収束の道程 患者やスタッフの心身のケアも求められた

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乙武:お聞きすればするほど、まさに戦時を思わせる過酷な状況ですね。そこで気になるのは、クラスター発生時の患者さんたちのメンタルです。いろんな方がいらっしゃると思いますが、皆さんどのような様子でしたか。

酒向:そもそも患者さんは、リハビリをするために来ているわけですから、それが中止されている状況に納得いかないのが当然でしょう。ましてそのご家族となれば尚更であり、お叱りの言葉を毎日たくさんいただきました。われわれとしては本当に申し訳なくて、毎日の電話対応で平身低頭お詫びするほかありませんでした。

乙武:実際に辛辣な言葉を浴びることも……?

酒向:もちろんです。命にかかわる事態ですから、厳しいご意見は当然だと思います。行政指導に基づき適切に対応しており、一刻も早くコロナを封じ込める対策を毎日必死で行っていますと伝えることしかできませんでした。完全に収束する日に向かって、ひたすらお詫びと説明を繰り返した日々でした。

スタッフのケアも大切な問題に

乙武:患者さんはもちろんですが、スタッフの皆さんも精神的にキツかったでしょうね。

酒向:そうなんです。電話を取る受付のスタッフなどは最前線で批判を浴び、心を病んでしまうケースも少なくありませんでした。さらに、患者さんを元気にすることが目的の病院なのに、クラスター期は思うように看護ケアができない現実に、多くのスタッフは心苦しさを感じていました。

クラスターに見舞われた各医療機関が孤軍奮闘を強いられているとすれば、国や自治体の支援を得られないのかと疑問に思いました

乙武:そうしたスタッフのケアというのもまた、大切な問題ですよね。

酒向:はい、とても。クラスター中は精神的余裕がない分、「みんなで乗り越えよう」という意思統一がされて、前を向き進むことができましたが、本当に困ったのはむしろ収束後です。コロナが収まってから、いろんなお叱りの声や、やってあげたいことができない現実などがボディブローのように効いてきます。また、スタッフ自身もやらされ症候群や燃え尽き症候群のようになって、精神状態が保てなくなるスタッフもいました。いわゆるコロナ鬱ですね。

乙武:それだけ壮絶な体験だったということですよね。今はもう、落ち着きを取り戻していますか?

酒向:収束宣言を出したのが今年の1月15日。それからおよそ4カ月を経て(※取材時)、少しずつ元の病院に戻りつつはありますが、まだ完全に解決したとは言えません。頭では、私たち本来の理念を取り戻そうと考えていても、心身がついていかないんです。

乙武:そこで酒向院長としては、どのようなケアを考えているのでしょうか。

酒向:不安定になったスタッフの話はしっかり聞き、必要に応じてメンタル治療を行う体制をとっています。そして、自分たちが何をするために当院に集まったのかという原点に立ち返ること。私たちのエッセンシャルワークは患者さんとそのご家族の、心と気持ちに寄り添い、回復する喜びを共有する仕事であるという原点を再認識できるようにしています。

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