75人クラスターの病院が苦悶した完全収束の道程 患者やスタッフの心身のケアも求められた

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乙武:しかし、それでは患者さんが頭をぶつけたり、転倒したりするのを防げませんよね。

酒向正春(さこう・まさはる)/1961年愛媛県宇和島市生まれ。愛媛大学医学部卒。1987年脳卒中治療を専門とする脳神経外科医を経て、脳リハビリテーション医へ転向。2012年副院長・回復期リハビリテーションセンター長として世田谷記念病院を新設。2013年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」第200回で「希望のリハビリ、ともに闘い抜く リハビリ医・酒向正春」として特集され、脳画像解析に基づく「攻めのリハビリ」が注目される。2017年4月大泉学園複合施設ねりま健育会病院を新設し院長就任

酒向:そうなんです。危険行動をする複数の患者さんたちを1人のスタッフでケアしようとしている時点で、感染予防は不十分ということなんです。おかげでたくさんの不穏や認知症の患者さんがいるクラスター下で体制を整えるのに、1週間ほどかかりました。

乙武:なるほど。習慣化しているところも多いでしょうし、すぐに対応するのはなかなか大変なことですよね。

酒向:また、一度感染した患者がどのくらいの期間、感染力を保つものなのかという問題もあります。感染力は10日間とされてますが、PCR検査をすると10日目以降も陽性反応が出るんです。実際、われわれの病院では発症から24日目の陽性率が67%というデータが出ています。つまり、PCR陽性患者さんにリハビリや看護ケアなどを行うことが濃厚接触になりますので怖いわけです。

陽性確認後20日間は感染リスクに注意

乙武:なんと、そんなに長いんですね。

酒向:こうした数字を知るだけでも、ゾーニングやリハビリにおける感染対策の重要性が高まりますので、これは重要ですよ。今はやっている変異株などは、もっと感染力が長い可能性があり、陽性確認後20日間は感染リスクがあると考えたほうがいいと思います。

乙武:ちなみに、感染ゴミの処理というのはどうされていたんですか?

酒向:感染者が触れたものはすべて、それ自体に感染リスクがあるため、屋外で72時間除菌するのがルールなんです。毎日たくさんのリネンやゴミが出ますから、この処理がまた大変で。

乙武:それでも、地道な処理を徹底しながら、1人ずつ感染者を減らしていくしかないのでしょうね……。

酒向:その通りです。もし感染管理体制にわずかな穴があれば、そこから感染が広がるのがこのウイルスですから、クラスター発生中はまさに戦時中のような状況でした。

乙武:完全に収束するまでに、どのくらいの日数を要したのでしょうか。

酒向:収束宣言には、トータルで1カ月半かかりました。まず、時間差で感染が広がった2つの病棟を抑え込むのに3週間。その後もスタッフを含めてぽつぽつと感染者が出て、これを収束させるのにもう1週間。収束宣言を出すには新規感染なしの状態が2週間必要なので、計1カ月半かかりました。

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