乙武:さらにもうひとつお聞きしにくい質問をさせていただくと、病院の信用面についてのダメージに関してです。クラスターが発生してしまったことで、悪い評価を受けるようなことはありましたか?
酒向:やはり、しばらくは入ってくる患者数は減りまして、以前のようなフル稼働に戻るまでに2カ月ほどかかりました。
乙武:すると、経営状態はすでに元通りに?
酒向:はい、そうですね。われわれの仕事は世の中に必要なものですし、黒字経営ですので、何も心配していません。それよりもスタッフの精神面の回復に時間がかかっていることが問題です。
感染症対策が重要な国力だという認識が弱かった
乙武:そうですよね。酒向院長のお話を伺っていると、こうしてクラスターが発生してしまった場合、病院は孤軍奮闘しなければならないのだなと、あらためて感じます。もっと国なり都なりのサポートがあって然るべきなのに。
酒向:何より、感染症対策にもっと注力していれば、よかったでしょうね。もし国が感染症分野に数千億円の予算を投じて研究を進めていれば、このコロナ禍による数十兆円とも言われる経済損失は防げたかもしれません。日本は島国であり、感染症の恐怖から隔離されてきたため、感染症対策が外交につながる重要な国力であるという認識が弱かったのだと思います。しかし、もう日本に未知なるウイルスが容易に入り込む時代になってしまいました。
一方で、人間力を保つためには、コミュニケーションや運動など、楽しむ活動が必須です。そのためにも、東京オリンピック・パラリンピックなどのイベントや経済活動は止めてはいけません。私たちエッセンシャルワーカーも仕事を止めることはできません。感染対策で、どのように密集と密接を管理すれば、安全にイベントや活動を実施できるかを科学すべきです。
乙武:その通りだと思います。せめて酒向院長のこの体験が、今後の教訓になることを願います。今回は貴重なお話をありがとうございました。
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