総力戦できず楽観的な日本がコロナ大迷走の必然 船橋洋一×戸部良一「私たちは教訓を学んでない」

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旧日本軍の失敗を分析した『失敗の本質』著者の戸部良一氏(右)とアジア・パシフィック・イニシアティブ理事長の船橋洋一氏が語り合った(撮影:尾形文繁)
コロナ禍の対応で迷走する日本。約40年にわたり読み継がれている名著『失敗の本質』で旧日本軍の失敗を分析した戸部良一氏と、独立系シンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」(API)を率い、福島原発事故と新型コロナウイルス感染症対策の民間調査を実施した船橋洋一氏が、日本の課題を4回にわたって話し合った短期集中連載。第2回をお届けする。

できないから考えない

船橋 洋一(以下、船橋):前回(日本のリーダー「危機を語らず隠す」が招く大迷走、6月1日配信)、戸部さんから「リーダーは危機について率直に語るべきだ」とのご指摘をいただきました。私も同感です。福島原発事故のときは当初、「メルトダウン」という言葉が官邸・経産省界隈で禁句扱いになりました。原子力安全・保安院審議官が、記者会見で炉心の溶触(メルトダウン)の可能性を示唆し、事実上更迭されるということまで起こりました。未曾有の危機に際し、そんな言葉狩りのようなことをやっていました。

別の見方をすると、それほど、危機に対する備えがなかったということです。平時において「最悪のシナリオ」を想定した備えができていない。「最悪のシナリオ」を作ったとして、もしそれが漏れたら大変なことになる、国民に極度の不安を与える、「そんなのやめとけ」、という発想ですね。政府には国民を信用していないと言うと言いすぎかもしれませんが、国民を子供扱いするような、ある種のパターナリズムがあったと思います。

今回のパンデミックも放射能と同じで「意志を持たない、顔の見えない敵」ですが、今後、「意志を持つ、顔の見える敵」による危機が起こる可能性はあるわけで、抑止ということも含めて「最悪のシナリオ」を想定し、そうした危機に備えることが必要だと思います。

戦前の為政者や軍部はどのような「最悪のシナリオ」に備えようとしたのでしょうか。

戸部 良一(以下、戸部):戦前の日本は東アジアでは最も強大な国家になっていましたから、軍事的に危機的な状況に陥る可能性について本気で考えていたかどうか定かではありません。ワーストケース・アナリシスといって、一般には軍人は最悪事態の分析をしがちだと言われます。軍人はつねにまさかの事態を考えていなければならない人種なので、戦争が起こったらどうするか、どう対応するかをつねに考えています。

が、日本の軍部がそうだったかどうかは疑問です。ワシントン海軍軍縮会議の翌1923年に帝国国防方針が改定されましたが、そのとき、複数国との交戦が議論となりました。第一次世界大戦は数カ国対数カ国の戦争でしたから、陸軍は、その状況を取り込み国防方針でも数カ国との戦争を想定した改定が必要だと考え海軍に打診したのですが、海軍は数カ国相手の戦争は不可能だと回答しました。結果、改定された国防方針でも、数カ国を相手とした戦争は想定しないことにしました。つまり考えを放棄しているんです。

船橋:「想定外」にしたわけですね。

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