「ナショナリズムは危険だ」と誤解されがちな理由 帝国や無政府状態よりも優れている「国民国家」
帝国と無政府状態の特徴には一長一短があるが、それぞれの建設的な点を取り入れ、ジレンマを解消した形態が、国民国家だと言える。国民国家の秩序が帝国や無政府状態よりも優れている点として、ハゾニーは次の5点を挙げる。
1.暴力が周辺に追いやられること:無政府状態における部族間衝突や、帝国における領土をめぐる戦争とは疎遠になる。
2.帝国主義的征服に価値を見いださない:ネイションの自由や繁栄に価値を置き、その内的統合や文化の継承を重視するため、対外征服や領土拡大に価値を置かない。
3.集合的自由:競合する部族間で恒久的和平を実現し、その他ネイションの征服にリソースを割かず、自らの秩序を押しつけない国民国家は、無政府状態や帝国とは異なり、自己のためにエネルギーを注ぎ、集団の繁栄と健全性を追求する自由を最大限に得られる。
4.競争的な政治秩序:経験主義的立場を根拠とするナショナリズムは、実験と学習の機会をもたらす。歴史を振り返れば、個人が科学や宗教、芸術で実り豊かな成果を生み出したのは、古代ギリシアやルネッサンスのイタリア、ウェストファリア体制のヨーロッパなど、国民国家や都市国家が他国としのぎを削る時代だった。
5.個人の自由:個人の権利と自由の伝統はモーセの律法に根ざし、英米の法律において発展してきた。これは個人が生まれながらにもっているものではなく、試行錯誤を重ねて作られた複雑な仕組みの成果である。つまり、統治者やネイション内の有力者が自らの権利を制限することで実現したものであり、相互の忠誠心で結ばれた国民国家だからこそ可能になる。
「EU帝国」を生み出した反ナショナリズム
第3部「反ナショナリズムと憎悪」では、ナショナリズムが憎悪を生み出すという非難と、新しい普遍的政治秩序を提唱するリベラル主義者に見られる憎悪について検証する。
憎悪には、ナショナリズムに関連して見られる憎悪と、帝国主義の活動に見られる憎悪がある。前者は、氏族や部族、ネイションによる、競合する部族やネイションに対する憎悪である。後者は、帝国主義的理想を抱く者が、普遍的主張を受け入れないネイションや部族に対して抱く憎悪だ。
たとえば、後者でよく知られているのは、キリスト教徒の反ユダヤ主義である。さらには、イスラム、マルクス主義、リベラリズムも、彼らの教義や信条を拒む者に対して、同様の憎悪を燃え上がらせる。
近年では、EUで顕著に見られる普遍的政治理想も、ナショナリズム同様に憎悪と偏見を生み出している。
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