男性の育休「義務化」で救える2つの命
小室 淑恵(以下、小室):菅首相も出席された昨年12月の「全世代型社会保障検討会議」で、櫻田さんのご発言が素晴らしくて感動しました。男性の育休取得に対してはまだまだ反対する経済界も多い中で、櫻田さんは「男性育休の取得対象者に対して、企業側からしっかり周知していくべきだし、男性育休取得率の数字を公表していくべきだ」と意見を述べられました。これが非常に大きな影響力を持って議論が前進し、国会では先日「企業から男性社員に育休が取れることを個別に周知する義務」が盛り込まれた法案が参議院を通過しました。
しかしまだまだ「中小企業の7割が男性育休義務化に反対です」という意見も出ている中で、今後どうしていったらよいでしょうか。
櫻田 謙悟(以下、櫻田):男性が育休を取得するということは、女性も働きやすくなるということです。日本の労働力自体が減っていくことは間違いなく、何らかの工夫が必要であり、男性だけが働くことでは成り立たないのだから、普通に考えたら当たり前なのです。中小企業においては、むしろ人を引き付けられない企業は市場から去っていかざるを得なくなる可能性があります。
小室:採用のブランディングには今、男性育休がプラスですね。
櫻田:まったくそのとおりですね。小室さんは、普段多くの企業経営者や管理職に男性育休の必要性を研修していると思いますが、必要性をどのように説くのですか?
小室:今、産後の女性の死因の1位は、自殺です。産後うつによるものです。産後うつは妊娠中に出ていた女性ホルモンが、出産で役割を終えて急激に出なくなるホルモンバランスの崩れが、原因です。症状としては、赤ちゃんが可愛いと思えない、「私はダメな母親だ」と自分を責めてしまう、夫に対して激しく攻撃してしまうといったものがあります。
よく「うちの母ちゃん、子供が生まれて怖くなっちゃったんだよ」と言う男性がいますが、産後うつの可能性が大きいのです。産後うつのピークは、産後2週間から1カ月です。症状を改善するには7時間の睡眠と、朝日を浴びて散歩が有効ですが、産後は2時間おきの授乳があり、「7時間睡眠」なんて絶対にとれません。
だから男性の育休が必要なんです。「なるべく早く帰って手伝うよ」では効果がありません。というのも、明日も出勤予定の夫に対して、妻は「夜中に起きて、授乳を交替してよ」とは言えないからです。そうして、産後うつがどんどんひどくなってしまうと、幼児虐待の1つの要因にもなってきます。ですから産後2週間から1カ月は男性が育休を取得することが重要なのです。
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