小室:いわゆるヨーロッパ型のジョブ型だと、働く時間と場所と給与のはっきりした労働契約をかなり厳密に結びますよね。転勤の時には、雇用契約を結び直しで、給与も再交渉されるということが起きます。これは、日本が今までわりと便利に使ってきた、「ちょっとこっちの地域が足りなそうだから、5人転勤!」ということはできない。配偶者の離職につながったり、介護事情のあるベテラン社員は転居できない状況が増えていたり、すでに多くの問題があるこの「転勤」という仕組みと、しっかり向き合わなければいけなくなりますね。
櫻田:そのとおりだと思いますね。いままで金融サービス業はその最たるものでした。SOMPOグループで言うと、国内の損害保険と生命保険が行ったり来たり、行ったり来たりするわけです。おそらく年間で数千人が全国を転勤している。この膨大なコストを掛けてなぜやるのかを突き詰めると、1つは金融機関であるから不祥事防止であると。もう1つは色々な地域を知ることが人間の幅を広げ、キャリアアップにつながると。
小室:よく言いますよね。
櫻田:「本当かい!」と思うんです。転勤しない人は、人間の器が狭いなんてことはないでしょう。もうそれは説明がつかない。従来の中心であった考え方、デフォルトが間違っているのです。基本は転勤しない、その仕事で頑張っていく、会社もそこで生産性を高くやりがいを持ってもらう仕事を日々与えていくようにしないと。
小室:癒着等の不祥事を防止するだけの観点ならば、「転居を伴う」異動は必要ないですからね。部署を異動するだけでよいはずです。転居を伴う転勤に関してが、他国からは「信じられない、そんな人権違反なこと」とみられています。そろそろ大きな課題になってきますね。
転勤しないと偉くならないという誤解を変えないと
櫻田:もうやめなきゃダメだと思いますよ。本人の希望があればよいですが。転勤しないと偉くならないというような誤解があるのが最も変えないといけないことです。
小室:今後ジョブ型で力を入れていかれるところは、どういうところですか?
櫻田:1つは報酬の決め方です。「あなたは500万」というようなマーケット価値をどうやって出すのかという、大きな問題があるんです。それからジョブ型へ移らないオペレーショナル・エクセレンス、素晴らしいオペレーションを追求してくださいという人たちのミッションが低いように見えるのもよくない。
ジョブ型一辺倒ではなくて、オペレーショナル・エクセレンスを追求する人たちにも、しっかりした評価報酬を与えるべきですよね。ジョブ型というのは、各企業にすでに存在している各ポジションを、しっかりと見える化していく、価値を見える化していくことだと思いますね。
小室:このジョブ型については、私が運営している「働き方先進企業経営者サロン」でも、今年のオンライン賀詞交歓会のブレイクアウトセッションでディスカッションしたテーマの1つでした。
櫻田:そのサロンは面白そうですね。ほかはどんなテーマが?
小室:ここ1年で、どの企業でも「出勤しないならば東京に住んでいる意味がない」と、地方に転居している人が増えているのですが、つまりテレワークのその先にある、「住む場所の自由化」というテーマや「男性育休」等のテーマについて扱いました。
中でも最も多くの経営者が選んだテーマは「ジョブ型」でしたが、実際にディスカッションしてみると、仕事内容をハッキリさせてコミットさせることには熱心なのですが、企業都合のみの転勤はさせられなくなることや、市場価格での給与交渉とセットであることまでは覚悟が決まっていないので、やっぱり難しいねという結論になっていました。今日は櫻田さんがそこまで見据えていらっしゃる点に最も驚きました。
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