プロ野球「新リーグ」が九州に新設された深い訳 あえて「独立リーグ」と名乗らない理由とは

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「スポーツクラブにはスポンサー、グッズ、スクール、ファンクラブ、チケットという5つの柱しかありません。それぞれの柱を太くしていきます。本当はチケット収入で35~50%は目指さないといけませんが、現実は厳しい。スポンサーの依存度は高いです。でも(スポンサー偏重の)壁を突破したいと考えています。

スポンサーの費用対効果だけを考えれば福岡ソフトバンクホークスにスポンサードするほうがいいと思いますが、地元を応援するという企業のCSRの対象になることと、球場にたくさんお客さんが来て盛り上がることで、スポンサー満足度を上げられると思います。

僕らは独立リーグでも集客への意識は高い方だと思います。球場にDJが入ったり、ビジョンを使ってパフォーマンスしたり、チアガールがいてそれぞれのイニングでイベントをしたり。限られた資源でやれることをやります。そして飲食も10店舗近く出しています。当然、NPBへの選手の輩出も目指します。

当面の経営を考えるうえでは、スポンサーの満足度を上げることに傾注したいと思います。集客は目指さないといけませんが、すぐには難しいので、メディアとも連携して他の努力もしていきます」

神田康範社長(写真:筆者撮影)

神田氏はゴルフのマーケティングやプロサッカーチーム、プロバスケットチームの経営にも携わったスポーツマネジメントのプロだ。

それだけに理念を理解しつつも現実的な経営を考えているという印象だ。

独立リーグの経営には「教科書」がない

4月になって試合が始まった。火の国サラマンダーズの監督は、西武、ソフトバンク、楽天、ロッテで捕手として活躍した細川亨、大分B-リングスの監督は巨人、ダイエー、ヤクルト、近鉄で投手としてプレーした廣田浩章。火の国のコーチには、大洋ホエールズの選手として昭和のプロ野球界で活躍した松岡功祐の懐かしい姿もあった。

78歳の松岡コーチは試合前のシートノックで、ノックバットを振るっていた。また火の国にはコーチ兼任で吉村裕基、大分にもコーチ兼任で白崎浩之とNPBの一線で活躍した選手がいる。試合は感染症対策を施して行われているが、数百人の観客を動員して、まずまずの盛況だ。

ノックバットを振るう松岡功祐コーチ(写真:筆者撮影)

新型コロナ禍でスポーツ界も大きなダメージを被った。しかし幸か不幸か「観客動員」への依存度が低い独立リーグ各球団は意外に元気で、この1年、倒産した球団はなかった。

火の国の神田代表は「スタートするにあたって入場料収入がゼロでも運営できる予算組みをした」と語った。このしたたかさが独立リーグの強みだろう。

独立リーグの経営には「教科書」がないと感じている。経営者の資質、そして本拠地の地域特性によって、ビジネスモデルも運営方針も変化する。プロ野球の本拠地がない地方都市では「お金を払ってスポーツの試合を見る習慣」が根付いていない。そのハンデは大きい。九州アジアリーグも、試行錯誤を続けながら理想を目指していくことになる。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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