「収納がない家」に住む私が直面した想定外の事 「キラキラ」を放棄するとはどういうことか

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タオル類は、薄いフェイスタオルを1枚だけ残すことにした。これで体も顔も拭き、毎日洗えば無問題。バスタオルがなくとも死ぬわけじゃない。

キラキラを処分するとどうなる?

もうほとんどボクサーの減量レベルの「減物」だった。当然、キラキラどころの騒ぎではない。我がキラキラはことごとく、即座に「要らない」世界へと落ちていった。何しろ「入らない」んである。ああ収納がないとはげに恐ろしき。

洗面台の上に取り付けられた鏡の裏のわずかな収納スペース。我が山のような化粧品はとてもじゃないが入らない……(写真:筆者提供)

例えばある日、私はポーチに入れた「爪のお手入れセット」の中身を点検し、途方に暮れていた。改めて見ると、爪にマニキュアを塗るだけでもさまざまな道具が必要なことに驚いてしまう。

爪ヤスリ、ベースコート、トップコート、除光液、そしてマニキュア……何とか減らせないかと頭をひねるも、爪を傷めず色付けようと思えばどれも減らすことはできないのであった。

でもどう考えても、こんな「ぜい肉」は我が新居に入る隙間などない。となると、私に残された選択肢は1つ……仕方ない。これ全部、処分するか……と思った途端、それが何を意味するかを考え、私は呆然とした。

私はこれからの人生を、裸の爪で生きていくのだ。非常に具体的なことを言いますと、私、足の爪がまったくキレイじゃないので、夏のサンダルシーズンになるととてもじゃないが素の爪を人様にさらす自信はなく、濃い色でダメ爪を隠しオシャレふうに装ってきたのである。でもこれからは、我が灰色に濁った、薄汚れたようにしか見えないダメ爪を人様に堂々とさらして生きていかねばならない。

うーん。

想像するだに厳しい現実だった。台所用品やタオルを減らすのは、自分さえ納得してしまえば終わりである。何しろ人様には見えない。しかしキラキラを処分すると、これはもう人様に見えるのだ。輝いていたつもりの自分が確実にくすんでいく。

だからどーしたと言い切れればいいけれど、そんなに簡単じゃないよ。くすんだ私を見る人の目の中で生きていく私。それで良いのだと心から言い切れるだろうか。というか、そもそもそんなふうに開き直ってパッサパサのおばさんとして生きていくって、それ自体どーなんだ。

私、どーなっちゃうの?? 

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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