「就職氷河期再来」語る人が的外れでしかない訳 コロナ禍でも企業の新卒採用意欲は底堅い

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すでに2022年卒の就活は始まっているが、内々定率からも企業の採用意欲の高さがうかがえる。マイナビ調査では2022年卒大学生の今年3月末時点での内々定率は21.5%(前年同期比+1.0ポイント)、平均内々定社数は1.5社(前年同期比+0.1社)となっているが、都内の偏差値上位校のキャリアセンター職員は「うちは35%を超えているだろう」という。

同職員によれば、採用数確保を焦る企業の中には「大学からの推薦状を持ってくれば内定を出す」と学生を急き立てる企業もあるとのこと。大学からの推薦状を持参する学生は内定を蹴る確率が低いことを見越して推薦状を要求しているのだ。すでに今年3月以前から囲い込みの動きが目立っている。採用現場では就職氷河期の気配すらない。

採用中止は一部の有名企業に限られる

一部の有名企業が採用を中止しているので、すべての企業が採用意欲を低下させているようなイメージがあるが実際は違う。採用意欲満々の企業もあるのだ。

半導体向け切断・研磨装置で世界首位のディスコは「採用予定数はない。優秀な学生ならば1人でも多く採用したい」との方針だ。本社だけでなく、拠点のある広島と長野でも採用活動を行っている。2021年4月入社は122名だったが、これを上回ることもありうる。

また、グラビア印刷やコーティング事業を手がける中本パックスの河田淳社長は「毎年20名は採用したいのだが、実際の入社は10名程度。業容拡大のために今期は20名採用したい。やる気があれば文系・理系は問わない」という。

中本パックスは海外事業拡大やIT関連資材開発により今後3年間で売上高を22%、営業利益を25%それぞれ増加させる中期計画を掲げている。計画実現のためには人材が必要なのだ。

企業の採用意欲の高さは中途採用市場の動向からも見て取れる。

転職サービス「doda(デューダ)」を運営するパーソルキャリアの調査によると、転職求人倍率は2020年1月に2.60倍と高水準だったが、コロナ禍で2020年9月には1.61倍まで低下した。しかし、その後は求人数の増加で上昇トレンドに転じ、2021年3月には1.86倍まで回復している。IT・通信やメディカル業界は採用に積極的だ。

今後の展望についてデューダの喜多恭子編集長は「4月の求人数は横ばいまたは微増で推移する見込みだ。2021年度の中途採用は新卒採用が落ち着く5月の連休明けから本格化する」とコメントする

引き続きDX・5G・情報セキュリティ分野での人材ニーズは高く、IT企業や半導体メーカーが採用を強化することが予想される。

「就職氷河期に突入」と言われることが多いが、実態は違う。採用数を増やす企業は少なくないし、新卒採用が進まない場合は中途採用増加で人材を確保するケースが多い。

田宮 寛之 経済ジャーナリスト、東洋経済新報社記者・編集委員

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たみや ひろゆき / Hiroyuki Tamiya

明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日経ラジオ社、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクに。2007年、株式雑誌『オール投資』編集長就任。2009年就職・採用・人事情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げ編集長となる。取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。2014年「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職

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