SDGs時代に「戦略的思考」がオワコン化する理由 世界41カ国で成果を上げる「PDアプローチ」とは

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ロジカルシンキングなどの戦略的思考は、このような人間の行動や感情にかかわる適応課題に対してはあまり有効なアプローチではありません。

もちろん、問題を整理するうえでその構成要素を網羅的に把握することは大切でしょう。しかし、因果関係をどこまで追求するかという点が問題になります。問題領域を絞るうえで原因追求はある程度までは必要でしょう。けれども、問題が技術的なものではなく適応課題であることが判明した場合、原因や悪者探しはストップすべきです。

というのも、私たちの行動はすべてが論理的であるわけではなく、感情的であり無意識的、習慣的であるからです。

そのなかでたとえ問題の原因となることがあったとしても、それをカバーするもの(たとえば、話を聞いてくれる人や助言してもらえる人)があれば、それが顕在化することはありません。いたずらに原因を追求するのではなく、このカバーするものを明らかにするのがPDアプローチなのです。

6カ月で栄養失調の子どもたちを救う

このPDアプローチは、SDGsなど開発途上国での多様な問題に主に適用されてきました。たとえば、乳幼児の高い死亡率、子どもたちの低栄養問題、人身売買、HIV・エイズの蔓延といった問題は、それに関係する人たちの行動変容が解決のカギとなります。

その際、悪者を探すのではなく、皆と同じような条件のなかで、比較的うまくやっている人たち、すなわちPDを探し出し、その行動特性を模倣していくことで課題解決していくのがPDアプローチです。

これは1990年、当時セーブ・ザ・チルドレンのディレクターであったジェリー・スターニンが、現地オフィスを開設するためにベトナムを訪れた際、ビザを延長する条件として、ベトナム政府から6カ月以内に子どもたちの栄養失調問題で目に見える結果を出すように求められたなかで創出されたものです。

資金援助がまったくないなかで、貧しい農村におけるPD家庭を探し出し、それらの家庭では、貧しいなかでなぜ栄養失調の子どもたちがいないのかを明らかにしました。通常のアプローチは、栄養失調の子どもたちの栄養摂取状態を客観的に調べ、不足している栄養を補給するため、栄養補助食を提供していました。これはロジカルシンキング・アプローチです。

しかし、このアプローチは栄養補助食が援助されている間は有効でしたが、援助が打ち切られると、栄養失調問題は再燃していたのです。

ジェリー・スターニンは、外部の援助に依存することなく(そもそもそのような援助をする予算が与えられていませんでした)、貧しい村の資源を使って栄養失調が解決できる方法を少数のPD家庭から発見しました。

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