SDGs時代に「戦略的思考」がオワコン化する理由 世界41カ国で成果を上げる「PDアプローチ」とは

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このような家庭では、食事中、手指の消毒を頻繁に行っているということ、そして食べる量は他の家庭と総量では変わらなかったのですが、食事回数を5回程度にして頻繁に食事をとるようにしていました。他の家庭では、食事回数は2回が標準だったのです。これは栄養の吸収効率を高めることにつながっていました。

そして、食材では、毎朝、早朝に水田に出向き、そこでエビやカニをタダで取ってきて、それを食材にしていました。また、ポテトの青菜部分は通常の家庭では捨てられていたのに対し、それを食材として利用していました。

当時のベトナムでは、これらは食用に適しているとは考えられていませんでした。日本でもカタツムリを食すことに抵抗がある人が多いのと同じです(しかし、フランスではエスカルゴになります)。このようなタダで手に入る食材を有効活用することで栄養失調問題を防いでいたのです。

このPDアプローチで明らかにされた行動特性は、その後、リビングユニバーシティ(実践を通じてこれらの行動特性を学ぶためのスクール)や栄養セミナーの開催などを工夫することで各家庭に急速に広がっていきました。

その結果、6カ月後の審査では、このプログラムに参加した40%に該当する245人の子どもたちが完全に栄養状態を回復し、さらに、20%が重度から中等度の栄養不良へと改善しているという結果が得られたのです。

答えは身近なところに転がっている

このPDアプローチは、SDGsの領域では30年以上の実績があり、世界41カ国で実践され、数多くの目覚ましい成果を上げてきました。

このアプローチは、企業の領域でも適用され、メルク、ゴールドマン・サックスなどで顕著な成果を上げています。企業への応用はまだまだ十分ではありませんが、このアプローチは非常に有力なものです。

というのも、外部の専門家に依存するモデルではなく、内部の関係者が中心となってPDを発見し、その普及を図ることになるため、自己完結的に課題を解決することが可能になるからです。

外部のコンサルティング会社に依頼して課題を解決するのは、国際機関が栄養補助食を提供することで栄養失調問題を解決しようとしたアプローチと同じです。それには多くの予算が必要となります。とくに問題なのは、外部依存型体質を生み出してしまうことです。外部の支援がなくなれば、問題は再燃することになるのです。

PDアプローチは、ジェリー・スターニンがベトナムで行ったように、外部の資源に頼ることなく、内部の関係者がすでに行っている隠された行動のなかに解決のヒントを得ようとするものです。

これは内部の資源にもとづいたものであるという意味で持続可能であり、内部で自己完結的に課題解決ができるため、コンサルティング会社に支払うような高額なフィーは不要です。うまくやれば、外部にまったく頼ることなくPDアプローチを適用することができます。それが難しい場合でも、少数のファシリテーターの限定的な関与でカバーすることができます。

私たちはそろそろ悪者探しや外部の権威を利用した抜本的改革なるものから脱却していく必要があります。答えは、外に求めるのではなく、いつも自分の身近なところに転がっているのです。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

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はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

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