SDGs時代に「戦略的思考」がオワコン化する理由 世界41カ国で成果を上げる「PDアプローチ」とは

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このことをもう少し整理してみましょう。戦略的思考、ロジカルシンキングと呼ばれる思考法は、原因を特定することで問題解決をはかろうとするアプローチです。原因を特定して解決される問題は「技術的問題」といいます。これらの思考法は、技術的問題には有効です。

それに対して、問題の因果関係に人間の行動が介在し、その行動変容が求められる場合、それは「適応課題」といいます。適応課題の場合、因果関係を特定して解決することはかなり困難になります。

たとえば、離職率の増加という問題があったとしましょう。そのとき、離職する人やその周りの人になぜ離職するのか、そこに何が問題なのかというWhyを問い詰めても有効な解決策に至ることは少ないでしょう。

まず調査する時点でいますぐに辞めそうな人にインタビューすることはできないし、すでに辞めてしまった人にアプローチしても協力してもらえる可能性は低いでしょう。

では辞めた人の同僚はどうかといえば、おそらく辞めた人のことなんかわからない、なぜそんなことを自分に聞くのか、と反発されるでしょう。とくに、感情的な問題がそこにある場合、下手に原因追求すれば、相手の感情を害し、調査はそこでストップすることになります。

このような場合、原因追求で問題が解決できることはあまり多くありません。人間の感情は論理では割り切れないからです。

適応課題に有効なPDアプローチ

このような適応課題に直面した場合、問題の原因を追求するのではなく、問題を克服した事例を身近なところから探し出すのがPDアプローチです。

ポジティブな逸脱者であるPD(ポジティブデビアンス)とは、対象となる集団のなかでポジティブな方向に逸脱した外れ値のことを指します。統計分析ではこの外れ値は除外されます。しかし、適応課題においては、この外れ値に解決の希望を見出すのです。

離職率の例でいえば、辞めた原因を追求するのではなく、辞めた人と同じような条件のなかで辞めずに従業員満足度も比較的高いPDを探し、その行動や周りの環境を観察することが考えられます。

この場合、PDは実は本人ではなく、その直属の上司であったり、家族であることも考えられます。その結果、離職率低下につながるPD行動が明らかになる可能性があります。

たとえば、従業員満足度の高い人たちは、上司とコミュニケーションを頻繁にとり、悩み事等について相談にのってもらう、あるいは少なくとも話を聞いてもらうことで不満が解消されていることがあります。

このような上司がPDとなります。次に必要なステップは、PDとして特定された上司の行動を明らかにし、実践を通じて組織内で普及させていくことです。人は悪者扱いにされれば反発します。しかし、いい取り組みについては、それによって業績が上がるのであれば、積極的に学び、行動変容につなげていくでしょう。

次ページSDGsなどの多様な課題に適用されるPDアプローチ
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