日本人に知ってほしい芸術家が育つ土壌の価値 作品の芸術性と価格にどんな相関関係があるか

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「貨幣としてのアート」が現実味を帯びてきたのは、1980年代ごろから。オークション会社では当時、モネやゴッホなどの印象派や、ピカソやシャガール、ミロといったモダンアート(20世紀初頭から第2次世界大戦までの美術)が活発に売り買いされていた。ただ、このカテゴリーが高くなりすぎて、なかなか作品が市場に出てこなくなった。そこで、次のマーケットを作らなくてはならないと彼らが注目したのが、生きている作家による現代アートでした。財を成した富裕層たちも、新たな投資先を探していました。株や不動産にも投資をして、さらに文化的な態度を取りたい人がアートに投資し始めた。

『ウォール・ストリート』という1987年の映画には、一介の証券マンが一流の投資家として成り上がっていく様子が描かれています。面白いのは、家の壁にかかっていく絵がどんどん変わっていくこと。最初は、100ドルくらいのアンディ・ウォーホルのポスターが貼られているが、それが投資家として成功すると、住むアパートも豪華になり、ピカソやモネの絵になっていく。この描写に見られるように、成功したビジネスパーソンは絵を買っていく、という文化がアメリカにはあるんです。

2000年初頭のITバブルのときに、今は世界で活躍している日本人作家、草間彌生や奈良美智、村上隆などの値段が上がり始めました。このときにもマネーがアートに流れ込んだ。それまでは、100万円、200万円で売られていた絵に、ケタ違いの値段がつけられるようになっていった。

そして今はまさに、デュシャンの予言が現実になった世界です。存命作家の中で最も高いジェフ・クーンズの『Rabbit』は、最初95万ドルほどで売られていたのが、2017年には6500万ドルほどになって、2019年には約1億ドル(約100億円)になった。こうなってくるともう、彼の作品が芸術的にどのような意味を持つかは無視されて、「ジェフ・クーンズの『Rabbit』だから欲しい」という人が現れる。そして、その人の財政状況によって作品の値段は上がっていく。こうなったらもう、非常に投機的な世界です。

オークションで売買されても作家に一銭も入らない

――オークションで高く作品が売れると、作家にもメリットが?

オークションで作品が売れても、作家には一銭も入ってきません。だから、作家にとっては「オークションなんて、俺には関係ない」となる。

フランスやイギリスといった欧州の一部の国では、「財産追及権」なるものが存在し、オークションなどのパブリックな場所で作品が売れた場合、落札額の何%かを作家に還元する制度があります。ただ、日本やアメリカはこの制度を認めていません。

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