片岡:一般にはほとんど知られていないと思いますが、愛知県は、コンセプチュアルアートの代表的な作家である河原温をはじめ、旭丘高校を卒業した荒川修作や赤瀬川原平など、多くの著名なアーティストを輩出しています。そういった愛知県の現代美術に対する誇りも、県民の方々の中に醸成していけたらと思っています。どこの芸術祭とも違う、愛知だけにある価値をもう一度考えるために、愛知特有の産業や歴史をより掘り下げて、地元の県民でさえ、自分の県を見直す機会になるような場になればうれしいです。
「アジア」を知らなくてはならない
須賀:森美術館の館長に就任された際に、世界のアート界が抱える問題や課題に対して、森美術館だけで取り組んでいくことは無理であるからこそ、ある種、世界中で手分けをしながら、自分たちで、できることをやっていきたいとおっしゃっていたことが大変印象的でした。グローバルにおいて、森美術館が担う役割とは何だとお考えでしょうか?
片岡:まず、森美術館は日本の美術館ですから、日本のことについては、世界のほかの美術館よりもやるべきことがたくさんあります。ただ、日本だけに限定すると、グローバルな需要は限られてしまうので、アジア太平洋全域はリサーチでも深掘りするターゲットにしています。
自分のキャリアを振り返っても、イギリスの美術館(ヘイワード・ギャラリー)で仕事をしていたときに「私は本当に必要ないな」と思った経験が、大きな転機になっているんです。イギリスには、イギリスのオーディエンスに向けて、現代アートを伝えたい人がたくさんいますし、キュレーターも山のようにいますから、彼らからすれば、私のような、ポッと日本から来た人に対しては、西洋圏の現代アートの動向をイギリスのオーディエンスに伝える役割よりも、アジアの動向を知っていることが期待されます。
日本は、すでにイギリスでもさまざまな発信をしてきたので、本当に知っているかは別としても、「日本のことなら知っているよ」という感じがあり、むしろ、「中国の現代アートはどうなっているの?」「インドはどうなっているの?」ということを、頻繁に聞かれました。そのときに、自分のリサーチ対象をアジア全域までには広げられていないことに気づかされたんです。自分がイギリスにいることの意味は、ほとんどない。もっと広い意味で、日本からアジア全域について、幅広い知識と経験を持った人材が必要になると感じました。
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