これまでのシリーズの総括となる今回は、やはりこの方の胸をお借りしたかった。長きにわたって、現代日本を洞察し、グローバルの視点・文脈からさまざまな提言を行ってきた、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)理事長の船橋洋一さんだ。コロナ禍に激動する世界で、日本の「勝ちすじ」は一体どこにあるのか。これからの「処方箋」は何になるのか。これまでのシリーズを通じて感じてきた日本の課題、そして希望について、船橋さんに思いの丈をぶつけた。
民主主義国家で問われた「レジティマシー」
須賀:本日はどうぞよろしくお願いします。今回の連載シリーズの締めくくりとして、船橋さんにご出演いただくことができて大変うれしいです。
船橋:こちらこそ。よろしくお願いします。
須賀:まずは、今回のコロナウイルスのパンデミックに対するお見立てをお聞かせください。
船橋:今回のパンデミックをきっかけに、より世界の距離が近づいている、あるいは一体化していることを強く感じます。現在は、地域ごとに程度の差こそあれ、世界中の人が同じ危機に直面して、同じように苦しみ、もがいている訳ですが、それぞれの状況が世界同時並行でリアルタイムに可視化されています。インターネット上では、それぞれが他国やほかの地域の様子について検索する一方で、自分たちも逆に検索されている、つまり、主体と客体が同時につながるような状況にあるのではないかと思います。どの国がどれだけのパフォーマンスを発揮しているかということが、インターネット上では瞬時にランキングのような形式で可視化されています。
同時に、危機への対応を通じて、国家や政府による統治のあり方も問われています。とくに、自由主義体制の国々では、レジティマシー(正当性)が大きな問題になっています。憲法には、自由や人権といったことが書いてありますが、国民の健康を守るためには、一時的にはそういったことも制限しなくてはならない。ただ、そういった制限を下す際のルール、手続き、そしてどのようなリーダーシップの下でそれをやるのか、といったことが問われています。
これはある意味では、日本も含めた民主主義の国々に対する大きな挑戦にもなっているのです。共産党一党独裁と自由民主主義体制は、価値観やイデオロギー的な問題から非常にするどい緊張関係にありますが、レジティマシー(正当性)や統治のあり方に対する問いかけは、今後、誰が、誰と、どのように協力し、どういったルール・規範・標準を作っていくのか、どのような国際秩序を築いていくのか、どんな世界をともに建設していくのかというテーマと深く関わる問題提起になると見ています。
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