日本の自衛隊「最悪の事態」の備えが不可欠な訳 軍事危機にどう使うか、コンセンサスが必要だ

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「災害派遣」の役割に国民の期待が高いが「国の安全確保」こそが本務でもある(写真:Charly Triballeau/AFP/Bloomberg)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

今できないことは最悪の状況では確実にできない

東日本大震災・福島原発事故から10年が経ち、日本はパンデミックの最中にある。多くの貴重な教訓は活かされているのだろうか。

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APIの前身の日本再建イニシアティブは、2013年に「日本最悪のシナリオ 9つの死角」で、尖閣衝突、サイバーテロ、北朝鮮崩壊、核テロなど9つの国家危機を想定し、最悪の事態をシミュレーションした。自衛隊は過去の災害派遣活動が評価され、国民から最も信頼される組織となり、これら最悪の事態でも最後の砦となることを期待されている。

だが、自衛隊は危機対処の手段の1つであり、外交・経済・情報などほかの手段を統合する政治指導が、最悪の事態では最も重要となる。最悪のシナリオに沿って危機管理体制を検証し、そのとき自衛隊をどう使うのか。国としてのコンセンサス作りが必要だ。

地震や台風など自然災害が多発する日本は、過酷な実体験に基づき、国の危機管理体制から国民一人ひとりの防災意識に至るまで、逐次強化してきた。一方、未経験の危機については、最悪の事態を想像することを忌避するあまり、危機そのものを否定する罠に陥っているように見える。

最悪の事態に向き合うことは大きなストレスを伴うため、実際に起きるかどうかわからない事態に備え、今ある通常の規範や制度を変えるには大きな抵抗がある。だが、今できないことは、最悪の状況では確実にできない。例えば、「危機に法は沈黙する」と言われる。東日本大震災・福島原発事故で、自衛隊は自衛隊法の任務規定にないご遺体の捜索・収容、ヘリ・地上からの放水などを実施した。

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