日本の自衛隊「最悪の事態」の備えが不可欠な訳 軍事危機にどう使うか、コンセンサスが必要だ

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現場では警察・消防などの「指揮」を命じられる場面もあったが、行政法の「運用の幅」で自衛隊に付与できる任務には、限界がある。原発事故が止められなくなったとき、命を懸けて原子炉をコンクリート詰めにする組織はいまだ定められていないが、それを自衛隊に命じることは「運用の幅」でできることではない。また、自衛隊の能力を過信し、いざとなれば自衛隊に命じれば何とかなるという誤った認識が生まれかねない。

職業軍人でない文民が、軍隊に対して最高の指揮権を持つ「シビリアンコントロール」(Civilian Control)の確保のためにも、最悪事態を想像する作業を通じ、憲法の国家緊急事態条項の欠落を含め、有事の視点からすべての法制のあり方を再検討する必要がある。

サイバーテロ、北朝鮮崩壊、核テロの複合事態さえ想定

日本が備えておかなければならないシナリオは深刻化かつ複雑化している。北朝鮮の核弾頭搭載ミサイルは日本を射程に入れ、サイバー攻撃能力も侮れない。場合によっては、サイバーテロ、北朝鮮崩壊、核テロの3つが複合する事態すら想定される。

中国は海軍力や法執行機関の能力を著しく強化し、尖閣諸島に対する侵害を常態化させた。2月1日から施行された海警法は、中国の定義する管轄海域において外国の軍艦や公船に対する武器使用を認めている。明らかな国際法違反だが、尖閣諸島周辺海域における中国の施政権を主張する布石であろう。

尖閣衝突危機は、緩慢だが、確実に進行している。尖閣事態と連動する恐れの強い中国の台湾侵攻の事態にも備えは必要だが、実は、最悪の事態をリアルに想定すること自体、困難な作業なのだ。これらの危機は自然災害やパンデミックと異なり、関係国の意図と行動が相互に影響するため、対応次第で事態を収められることもあれば拡大することもある。

関係国の国益が複雑に交錯する状況において、日本の主権と国民を守るため自衛隊にどのような任務を付与するのか、さらにはその結果としての犠牲をどこまで受容するのか、高度の政治判断と政府全体の対応、そして国としての覚悟が要求される問題である。

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