日本の自衛隊「最悪の事態」の備えが不可欠な訳 軍事危機にどう使うか、コンセンサスが必要だ

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従ってこれらの最悪事態の考証は、対応に当たる主要関係者全員が参加し、公式に実施することが重要となる。その理由は、緩慢に進行する危機の痛みや最悪の状況の怖さを実感し、危機感を共有すると同時に、関係者全体で想像することで、組織間の齟齬や隙間などの具体的な問題点を確認できるからだ。

また、要職者個人の危機管理能力を向上させることで、政府全体の対応の質が高められる。例えば、刻々と変化する状況に対し事態をどう認定するのか、究極の決断を限られた時間内に求められるため、有事や危機は普段とまったく違う法則が支配することを肌で経験できる。

千差万別の、あるいは複合的な危機に際し、確保すべき国益や目標の何を優先するのか、どの手段をどう使うのか、首相はどこに位置して指揮するのか。首相に事故があった場合の自衛隊の指揮権は誰が継承するのか、内閣の危機管理関係局室と防衛省・統合幕僚監部はどのように役割分担・連携するのか、通信連絡・情報共有の手段・手続きは機能するのかなど、確認する必要があることは多い。

必要なら新たな法制やインフラ整備、国民への説明を

まず、現行体制を検証し、その運用に習熟しなければならない。そして、必要があれば新たな法制やインフラを整備するとともに、考証の結果を適切に国民に説明し、定期的な訓練などにつなげることが必要だ。

東日本大震災で自衛隊とアメリカ軍は初めて日米共同作戦を実施した。災害救助のトモダチ作戦では従来の共同訓練の成果が遺憾なく発揮されたが、原発事故対応では日米の国益の違いに根差す同盟の限界や放射線に関する行動基準の相違を認識させられた。

その後、日米ガイドラインが更新され、平和安全法制も制定されたが、北朝鮮や中国に関わる最悪の事態を想定した日米政府間の検討は未了である。自衛隊とアメリカ軍は、日米共同統合演習(実動または指揮所)を毎年実施し、有事における軍事面での共同対処能力の向上を図っている。だが、原発事故対応で問題となった日米政府間の協議については、「同盟調整グループ」が組織されたものの、全省庁の恒常的な参加と政治家の関与の仕方は決まっていない。

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