日本の自衛隊「最悪の事態」の備えが不可欠な訳 軍事危機にどう使うか、コンセンサスが必要だ

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武力攻撃事態に至る可能性のある危機は、状況に即した事態認定と自衛隊への任務付与という政治と軍事の接際部、また、戦略的メッセージの発信や地経学的な対応など政府全体のアプローチが重要となる。同時に、日米間の利害調整と共通目標の設定が不可欠であり、それによって自衛隊とアメリカ軍の共同作戦は方向づけられなければならない。

アメリカは、核戦争を筆頭にあらゆる最悪の事態が起きるという前提で体制を整えているが、パンデミックによって加速した相対的な国力の低下のため、同盟国に対する役割分担の増加を求めざるをえなくなっている。外交問題評議会の最新報告書「アメリカ・中国・台湾:戦争抑止の戦略」は、アメリカの台湾防衛戦略には日本の参加と同意が不可欠だと明記している。

台湾有事は、日米同盟にとって最も重要かつ困難な試練となろう。実戦で試される前に、そのとき何が起きるかを合理的に問い詰めていくアメリカ式の想像と思考によって、日本の戦略を考えなければならない。バイデン政権は国防省に中国タスク・フォースを設置し、対中戦略を練り直している。日本は今からでもその作業に関与し、最悪シナリオに基づく同盟戦略をすり合わせる必要がある。

いざというときの実力を高めなければならない

自衛隊は究極の危機である戦争に備える組織である。災害派遣の実績が評価され、自衛隊に期待する役割の1位は「災害派遣」(79.2%)であり、「国の安全の確保」は2位の60.9%にとどまる。実際、自衛隊はさまざまな災害などに駆り出されており、最後の砦が普段から前線で活動する状況になっている。だが、自衛隊が最後の砦となるべき防衛事態は、自衛隊を含め政府も国民もまだ誰も経験していない。

北朝鮮の核ミサイルや中国の圧倒的な軍事力を相手に、自衛隊が必ず国と国民を守れるという保証はないのだ。政府は、武力攻撃事態の危機管理体制の再点検と修正を急がなければならない。自衛隊に必要な資源と時間を与え、いざというときのための実力を高めなければならない。

そして、最悪の事態を想定したリアリティのある訓練によって、政府全体の危機対処能力を向上させるとともに、国民の理解を深めなければならない。未経験の危機で自衛隊をどう使うか、そのコンセンサスが最悪の事態の備えには不可欠である。

(尾上 定正/アジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェロー、元空将)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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