須賀:経産省で、クールジャパン戦略を担当していたことがありました。当時から、文化を輸出するということに対してはおこがましさを感じていたのですが、いいモノとは、放っておいても勝手に輸出されていくものなのでしょうか? もしくは、ある種の後押しする必要があるとお考えになりますか?
ブランディングの矛盾
片岡:とても難しいですよね。昨年、森美術館では日本の現代美術のスターを見せる『STARS展』のなかで、“日本現代美術”と言われるものが海外でどのように紹介されたのかを歴史的に検証するアーカイブを展示しました。
そこで感じたことは、「日本の現代美術」とくくった展示を開催すると、観に来た人は、それぞれの作品に対して、どこに日本的な要素があるのか、無意識に探してしまうということです。「日本」というくくりを出せば出すほど、展示されているアーティストを「日本」という枠組みに押し込んでしまう矛盾が生まれます。
須賀:まさに、プロジェクトに携わる中でも、「ブランディングとは絞り込むことであり、いろいろなことをやっていますと売り出すことは、何のメッセージになっていない」と、よく言われたんです。一方で、無理矢理絞り込もうとすると、伝えるメッセージがバラバラになってしまい、難しさを感じることもありました。
片岡:日本の文化の面白いところは、対極にある、例えば、「伝統」と「前衛」あるいは「テクノロジー」といった概念が、同時に“うようよ”と存在していることだと思うんです。そういった複雑さや両義性を、クールジャパン戦略のように、1つの方向に押し出そうとすることに無理があり、そのように力を作動させることが、全体的にカッコ悪くなってしまう原因なんだと思います。
例えば、1990年代末以降の文化庁による漫画やアニメ等日本のポピュラーカルチャーの振興策、2002年のダグラス・マグレイの記事以降の「クールジャパン」の浸透、そして遅れてやってきた経産省の「クールジャパン戦略」などによって、日本の現代アート全体が、漫画やアニメのようなものだよねとレッテルを貼られてしまうことにもなってしまいました。
【2021年3月11日16時31分追記】初出時、クールジャパン戦略に関する記述に不正確な部分があったため、上記のように修正しました。
須賀:なるほど。
片岡:私が仕事をしていた、2007年から2009年頃のロンドンでもそうした印象が強くあり、よりコンセプチュアルなものや社会的、政治的な課題に取り組むものなど、それとは方向性の異なるアートは、表層から見えにくくなっていました。ブランディングの難しいところは、1つの方向に進めていくことで、その方向性に該当しない側面や多様性を潰してしまう現象が起きることだと思います。
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