片岡:「多様性」をいかにバランスよく提示するのかは、現代社会において、非常に難しいことではありますが、「現代アート」というプラットフォームにできる重要なことの1つだと思っています。多くの来場者が呼び込めるからといって、すべての展覧会を同じような内容に寄せてはいけませんし、きれいな作品だけを集めるのもつまらない。
一方で社会状況を告発するような作品ばかりを集めた、政治的、社会的な内容だけでもアンバランスになる。現代アートが世界の縮図であるためには、世界にはいいことも悪いことも、おいしいものもまずいものもあるということが、バランスよく投影されていなくてはなりません。
須賀:バランスをとるということは、片岡さんの中でも重要なテーマなのでしょうか?
最高級の「ダシ」になりたい
片岡:バランスをとる美しさのようなものが、自分の中の美学にあるんです。多様なもの、複雑なものを、必要以上に単純化せず、複雑なまま見せることを意識しています。個人的には、複雑なものをいかにバランスよく見せられるかということは、単純化して見せるよりも難しいことだと思っていて、そのことにやりがいを感じるんです。
バランスをとる役割の人は、極端にどこかが出っ張っている人よりも目立たないのですが、それが面白い。シドニービエンナーレのカタログには、「“ダシ”のようなキュレーターを目指している」と書きましたが、すばらしいアーティストがたくさんいる中で、その人たちの持ち味を最もよく伝え、それらを総体として高次にまとめられるような、絶妙にすばらしい、最高級のダシになりたいんです。
須賀:バランスをとろうとする際に、意識されていることはありますか?
片岡:均衡を保つということは、それぞれの平均を取りながら、リスクのないものを見せることではなく、それぞれの究極を引き出しながらも、全体としてレベル高くバランスした瞬間を見せることが重要だと思っています。なので、一方の極に攻めのボールを投げたら、逆方向にも同じように投げることを意識しています。
須賀:日本人は、バランスをとる役割に向いているのでしょうか?
片岡:日本人が向いているかどうかはわかりませんが、バランスをとること、均衡の瞬間を模索することは、今後ますます重要になると思っています。近代の中で育まれてきた、多数決で物事を決める民主主義的な意思決定の方法も、現代のように分断が進む社会では白か黒かという二項対立の限界を感じます。アメリカ大統領選挙や大阪での住民投票などでも、51%対49%のような数字の割合で、真っ二つにわかれていますよね。ただ、それは多数決のルールにおける話であって、51%が49%よりも正しいのかと言われると、それは甚だ微妙です。
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