日本は豊かな国だと信じる人の「大いなる誤解」 日本型経営は数字を見ず合理的経営ができない
日本の1人当たりGDPはシンガポールに劣る
出口 治明(以下、出口):この30年間で日本の名目GDP(国内総生産)の世界シェアは最も高かった時の半分以下になりました。国民1人当たりの名目GDPも2000年には2位でしたが、このあとずっと下降し続けて2018年には26位まで落ちています。
日本がどんどん貧しくなっていることは確かなのですが、名目GDPではまだ世界3位だから、自分たちはお金持ちだと錯覚しています。名目GDPが大きくなるのは人口が多いからにすぎません。さらに労働生産性では、1970年に比較統計を取り始めてからずっとG7(主要7カ国)で最低です。
ある友人がシンガポールに行ったら、えらい物価が高くてびっくりしたと。「ホテルでアフタヌーンティーを頼んだら、5000円以上取られたけれど、外国人やからぼったくられたんやろか」と言うので、スマホで検索して、シンガポールの1人当たりのGDPを見せたら、すぐに納得しました。無意識にシンガポールより日本が上やと思っていたけれど、違うんやなと。
上野 千鶴子(以下、上野):1人当たりGDPは、すでにシンガポールに抜かれているんですね。
出口:より実態を表わす1人当たり購買力平価GDPを見ると、シンガポールはおろか、日本は香港にも台湾にも抜かれていて、お隣りの韓国とほぼ横一線の状態です。G7では最下位です。
上野:日本は人口小国になったらシンガポール型を目指せばいいというシナリオももはや実現可能性は低くなっている。つまり貧しくなっていくしかないのでしょうか。
出口:日本経済がこのように停滞しているのは、製造業の工場モデルに過剰適応した男性の長時間労働という働き方を変えることができなかったからだと思います。働き方が変わっていたら、日本はもっといい社会になって、生産性も上がっていたはずです。働き方がほとんど変わらなかったことが日本社会の根源的な問題ではないでしょうか。