日本は豊かな国だと信じる人の「大いなる誤解」 日本型経営は数字を見ず合理的経営ができない

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出口:危機感がないのは、今までと同じことをやるほうが楽だからじゃないですか。今までと同じことをやって、同じ給与がもらえるのであれば人はなかなか変わらないように思います。

上野:追い詰められていることがわからないから?

出口:国際比較した数字をきちんと見ないからです。

上野:国内しか見ないということですか?

出口:はい。前年の売り上げが300億円で、今年は310億円。国内しか見ていなかったら、まあこんなもんやろと。働いている人たちも同じことをやり続けて同じ給与がもらえるのであれば仕事を変えようとはしない。

完全に閉じた世界しか見ていない

上野:実質所得は減り続けていますよ。

出口:その通りで、前述した1人当たり購買力平価GDPでみれば、絶対額がG7最下位であるばかりではなく、伸び率も小さい。つまりアメリカやドイツとの差は開いているのです。でも、そうしたデータを誰もみない。

加えて、物価も上がりませんから、そんなに痛みを感じないのでしょう。経営者は、業界何位とか業界シェア、社会的地位、たとえば経団連(日本経済団体連合会)企業だとか、そういうことを見て満足しています。

経常利益率や生産性の向上、あるいは従業員の給与を上げれば初めて合理的経営といえるのですが、そういう数字はあまり真剣に見ようとしないから、合理的な経営が行なえないのです。平等型企業のほうがはるかにパフォーマンスはよくても、不幸なことにそれほど大きくないので、大企業にとっては痛くもかゆくもないのでしょうね。

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上野:平等型企業は新興のベンチャー等に多く、ビジネスの規模が小さいですね。

出口:アメリカのGAFAのように規模もガンガン伸びて、古い企業を淘汰していけばみんなが必死になるのですが、現状だと、ええことやっているけれどあれは小さい会社やからできることやで、と安心しきっています。

上野:おっしゃる通りだと思います。完全に閉じた世界しか見ていません。同じような話をある大企業の会長からも聞いたことがあるんです。彼も日本の大企業は横並びでお互いしか見ていない。グローバル企業の利益率は平均15パーセントだけど、日本の大企業の利益率は平均4~5パーセントと。比べものにならない。

出口:利益率はグローバル企業の3割にも満たない。

上野:それでも横並びでしか見ていないから、これでいいんだと。お互いに低位安定しているのが日本だ、とおっしゃっていました。

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

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でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

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上野 千鶴子 社会学博士。東京大学名誉教授

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うえの ちづこ / Chizuko Ueno

一九四八年富山県生まれ。京都大学大学院修了。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして教育と研究に従事。著書に『家父長制と資本制』 『おひとりさまの老後』『在宅ひとり死のすすめ』などがある。

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