日本は豊かな国だと信じる人の「大いなる誤解」 日本型経営は数字を見ず合理的経営ができない
上野:惰性ですね。成功体験があると、自然とその状況に依存することは、日本に限らずどの国の社会にもあります。
出口:無意識の偏見がずっとあるような気がしています。たまたま戦後うまく復興ができたから、日本型経営が正しいという偏見が強化されたのではないでしょうか。
でも、戦後の日本の高度成長を計量的に分析すれば、ほとんどが人口増と、朝鮮戦争による特需などの偶然が重なったことが実は大きいのです。
上野:歴史の偶然のおかげですね。
出口:そうです。必ずしも日本型経営が優れていたからではありません。日本型経営が優れていたら、この30年間、正社員ベースで2000時間以上働いて平均1パーセントしか成長しないことの説明がつきません。
欧米は数百時間少ない労働時間で平均2.5パーセント成長しているわけですから、真実はむしろ日本型経営は劣っていると理解すべきです。
数字を見ない、合理的経営ができない経営者
上野:経済学者の川口章さんが、差別型企業と平等型企業を比較した実証研究で、平等型企業のほうが売上高経常利益率は高いことを明らかにしました。他にも、女性差別が少なく女性役員がいるような企業のほうが、生産性が高く、パフォーマンスがいいという実証データが上がっています。
それなら差別型企業は内部改革をして平等型企業に移行するかというと、ノー。なぜなら、変わる動機がないからだと言います。
出口:僕が働いていた日本生命はずっと業界1位でした。でも一度だけ瞬間的に第一生命に抜かれたことがあって、その時、「これは看過できない」と役員がコメントしていました。
それで何をしたかというと、別の生命保険会社を買収して1位を取り戻したのです。そして伝統を守ったということでした。
上野:めちゃくちゃ内向きの発想ですね。企業は、経済合理性を追求するものではないのですか。
出口:これは僕自身よくわからないところもありますが、仮説の1つは、経営者はそれほど経済合理性を考えていないということです。
上野:それでは、企業は何をもとに動いているんでしょう?
出口:一般に企業は経済合理性、つまり数字(トップラインやボトムライン)を見て動くと考えられていますが、日本の経営者は、グローバル企業の経営者に比べれば、数字よりも業界内の序列やシェアに関心を向ける人が多いのではないでしょうか。
上野:企業のトップや管理職の人に、「どうしてこんな不合理な慣習が続いているのですか?」と聞いても、彼らには危機感があるとは思えない。それがどう考えても不思議です。