宇野重規「民主主義にはそもそも論が必要だ」 「デモクラシー」はいつから肯定的になったのか
――「デモクラシー」という言葉が、どういう経緯で肯定的な意味を獲得していったのかという説明も非常に勉強になりました。ヨーロッパでは、長い間「デモクラシー」がネガティブな言葉だったことは知っていましたが、いつごろからポジティブになったのか、よくわからなかったんです。
それも教科書トラップかもしれませんね。社会契約論から民主主義へという流れが強調されるので、われわれはうっかり社会契約論が提唱された17世紀ぐらいに、民主主義はポジティブな意味を持っていたと勘違いしがちです。
民主主義が肯定されたのはごく最近のこと
でも、よくよく文献を読んでみると、18世紀のルソーだって、デモクラシーをいい意味ではろくに使っていないんですね。彼は「人民主権」や「一般意志」という言葉は肯定的に使っていますが、具体的な政治体制を語る際には、「デモクラシーはよほど天使のような優れた国民にしか向かないので、現実にはなかなか難しい」といったようなことを書いているんです。あるいは、アメリカ独立革命の指導者たちも、みんなそろって民主政を悪い意味で使っていて、それと対比する形で共和政をいい意味で使っている。
教科書では、近代民主政はアメリカ独立革命とフランス革命で花開いたというふうに書いてありますが、その当事者たちはデモクラシーをいい意味で使っていない。デモクラシーをいい意味で使い始めたのはずっと後のことで、1830年代のトクヴィルあたりからでしょう。
さらにいえば、誰もがデモクラシーをいい意味で使うようになったのは20世紀に入ってからです。アメリカは、2つの世界大戦に参加するにあたって、デモクラシーという大義を掲げました。とくに第2次世界大戦では、民主主義対全体主義という大プロパガンダをおこない勝利したので、民主主義はすばらしいという世界的なコンセンサスができあがったわけです。
――本当にごく最近のことなんですね。
そういう時代感覚はけっこう重要なんですね。いま、少なからぬ人々が民主主義について悪口を言っているけれど、そんな議論は昔からつい最近までずっとしていた。だから、慌てることはないんです。こういうときだからこそ、うろたえずに民主主義の善しあしをじっくり考えましょうと。それが『民主主義とは何か』の狙いです。
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